四半世記

感想文ページ(ネタバレあり)

密(ひそか) 感想 凋叶棕

さあ、秘密を曝け! 秘密とはそのためにあるのだから!

(公式ホームページより)

 

RD-soundsという方の主催する凋叶棕という音楽サークルがコミックマーケット89(2015年冬)に発売された「密」という東方アレンジアルバムについて

 

 

公式ページ

http://www.rd-sounds.com/c89.html

 

 

曲目は

1. ジ・アフターマス 

 原曲:ラストオカルティズム ~ 現し世の秘術師(東方深秘録)

2. Ms.lonely hedgehog vo.nayuta

 原曲:ラストオカルティズム ~ 現し世の秘術師(東方深秘録)

3. アイ・リトル・ヒーロー vo.めらみぽっぷ

 原曲:信仰は儚き人間の為に(東方風神録)

4. それは時代とともに 

 原曲:夜が降りてくる ~ Evening Star(東方萃夢想)

5.  『我が愛しき密室少女に寄せて』 vo.nayuta

 原曲:ヴアル魔法図書館(東方紅魔郷)

6.  アリス・ザ・エニグマティクドール vo.めらみぽっぷ

 原曲:ブクレシュティの人形師(東方妖々夢)

    人形の森/エニグマティクドール/サーカスレヴァリエ(蓬莱人形)

7. マエリベリー・ハーンの憂鬱 

 原曲:魔術師メリー(蓮台野夜行)

8. いつか沈み行く暗闇の中に vo.めらみぽっぷ

 原曲:少女綺想曲 ~ Capriccio(東方幻想郷)

9. 竹藪の中<<阿礼乙女に問われたる花屋の物語>> vo.Φ串Φ

 原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

10.  竹藪の中<<蓬莱人に問われたる白兎の証言/白澤の独白>> vo.Φ串Φ

 原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

11.  竹藪の中<<  人の慟哭>> vo.Φ串Φ

 原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

12. black earth magic

 原曲:天空グリニッジ(大空魔術)

13. Kirisame Eversion vo.めらみぽっぷ

 原曲:魔法使いの憂鬱(The Grimoire of Marisa)

    Witch of Love Portion(蓬莱伝説)

14. 宇佐見董子と秘密の箱庭

 原曲:緑のサナトリウム(伊弉諾物質)

15. Secret Disclosers vo.めらみぽっぷ/nayuta

 原曲:少女秘封倶楽部(蓮台野夜行)

 

 

密は「秘密」をテーマにしたコンセプトアルバム。

歌詞カードは1枚に閉じられておらず、1曲ごとに1枚になっている。曲が書いてある面がおそらく表で、裏をめくると秘密をみることができるという構造になっている。

表の歌詞と裏の歌詞に分かれているということに意味が付与されている。

 

全体に原曲の選択がマニアックで、上海アリス幻樂団のCDから多くとられている。

一方で、レイマリ・アリス・早苗・秘封倶楽部と凋叶棕が継続的に取り上げているテーマが全部入りになっている。

凋叶棕とはこういうサークルです!ということを端的にあらわしている1枚。

 

 

 

 

 

1. ジ・アフターマス

2. Ms.lonely hedgehog

「でもそれこそ本当は 唯一つ真理だったのかもとも」

原曲:ラストオカルティズム ~ 現し世の秘術師(東方深秘録)

宇佐見董子は、東方深秘録で登場し東方界隈を震撼させたキャラである。

彼女は、東方ナンバリングではじめての完全な外の世界の住人(女子高生)であり、秘封倶楽部の初代会長である。

秘封倶楽部といえば上海アリス幻樂団のCDで展開されている宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンのそれと同じ名称で、宇佐見という苗字も同じで、公式で明言されていなくても関連性を想像してしまう。

そんな問題人物の宇佐見董子は、深秘録のおまけtxtで、自分は他の人間より優れていると思っていた中学時代や自分は他の人間とは違う種族だと思い込んで秘封倶楽部を創設する高校時代が細かめに設定されている。

本曲は、董子のそういう部分を含まらせたアレンジである。

ちなみに深秘録が2015年の5月発売でこのCDが同年12月のコミケで出たから、この人物がRD氏をどれほど惹きつけたのかがわかるというもの。

 

まず歌詞カードがすごい。公式ページの表紙が歌詞であり、画像にマウスカーソルを置くとなにが起こったのかを教えてくれる。

 簡単にいえば自分のクラスを物理的に吹き飛ばしてしまったわけだけど、夢を歩くことができる彼女にはそんな悪夢のような現実を離れることもできる。

けれども、吹き飛ばしたものにひょっとしたら価値があったのではないかと心のどこかで考える。その想いこそが途切れた歌詞カードの先にある秘密であり、裏をめくると秘封倶楽部の入部届だけがある。この虚無感はすごい。

ちなみに、入部届の希望する理由は修正テープが張られているが、表面をみると赤文字でクラスメイトと思しき人からの煽り文句がうっすらみえる。これだけされてもまだそこに価値があったのではないかという董子・・・

これだとあまりにも救いがなさすぎる気がするけど、その後も凋叶棕の董子はこの路線で、RD氏の愛情が伝わってくる。

 

 この歌詞カードはラストトラックとも関係していて、会長1人の秘封倶楽部と蓮メリ二人の秘封倶楽部の対比にもなっている。その辺はラストトラックの項で。

 

余談だけど、vocalのnayutaさんは古くからniconico動画に親しんでる人には馴染み深い人で、凋叶棕のvocalで登場したときは懐かしく嬉しかった。初登場は前作の喩だが、今作で4曲、アルバム的にも重要な曲を担当したことで今後も継続することを確信した思い出。

 

 

3. アイ・リトル・ヒーロー

「ヒーローはいつも無敵だから!」

 原曲:信仰は儚き人間の為に(東方風神録)

 

シリアスも電波もギャグもこなせる凋叶棕のオールラウンダー、早苗曲。

前曲とまったく対照的な明るさをもつこの曲、この配置はきっと偶然ではないだろう。

董子と早苗は外の世界の女子高生である(あった)という共通点がある。

しかしこの非対称はどうしたことだろう。早苗は原作でも幻想郷に適応している性格をみているせいか、正義の使者を自称してても痛々しさはあんまりないし、クラスから浮いてようとも楽しくやってそうな感じもする。

やはり人でとどまる者と現人神になる器の者の違いなのだろうか。

 

 

4. それは時代と共に

原曲:夜が降りてくる ~ Evening Star(東方萃夢想)

 

凋叶棕の八雲紫はほぼほぼ秘封枠である。そう考えるとこのアルバムのインストはすべて秘封関連で統一されている。

夜が降りてくるはたびたびアレンジされているが、単独でテーマになっているのは一作目の宴以来だから久しぶり。

 

原曲のアップテンポ感とオシャレ感がアレンジを経ても生きていて、かなり原曲みがある。個人的にはこのアルバムで最も原曲を感じる。

 

 

5. 『我が愛しき密室少女に寄せて』

「ああ本当の主従を教えます!」

原曲:ヴアル魔法図書館(東方紅魔郷)

 

二次創作をテーマにした今作のほのぼの枠。主パチュリーでカップリング妄想をする小悪魔曲。

表面はまさに同人誌、表面の歌詞は裏にも記載されていて、さながら公然の秘密。

咲夜と魔理沙と小悪魔、どのカップリングにおいても主を受けにしてるのが不届き物の下僕。

 

この曲はとても可愛くほほえましい曲なのだけれど、小悪魔は原作ではとくに設定がなくこういうキャラ付け自体がとても二次創作的なので、二次創作の多層構造を感じる。

二次創作はある種キャラに肉付けをして新たな秘密を作り出すような側面もあるので、この曲がアルバムの真ん中付近に位置していることには重要な意味があるのかもしれない。

 

  

6. アリス・ザ・エニグマティクドール

「秘密なき、この姿にきっと僕は焦がれていたんだ」

原曲:ブクレシュティの人形師(東方妖々夢)

   人形の森/エニグマティクドール/サーカスレヴァリエ(蓬莱人形)

 

ザ・アリス曲。

東方のなかでRD氏が最も愛しているであろうキャラがアリスで、純粋な歌のなかでは凋叶棕史上最長の長さをほこるこの力作。長いけれども盛り上がるメロディがふんだんに使われていて長さを感じない。

なかでも「この扉を開いたとき」の高音は秘密を除き見たときの高揚感みたいなのが感じられて気持ちいい。

 

内容としては、アリスの人形劇を見ていた少年がその魔法の秘密を暴こうとして返り討ちにされてしまい九人目の人形にされてしまう、というもの・・・だと思う。

題名が描いてあるほうが表面だとすれば、九人の仲間たちの演目が題名が表に残った現実で、裏面は少年の末路として知られざる演目になることとなる。

ただし、私は初開封時を覚えていないのだが、凋叶棕wikiによると題名のないほうが表面として封入されているらしい。とすると、少年に関する演目はそれ自体が一種の劇という見方もできるかもしれない。アリスも糸で操られているし。

 

RD氏があまりにアリスを愛しすぎてるから、このアリスに魅入られた少年がRD氏で、アリスの演目の一部になっているという妄想をしたことがある。かなり飛躍しているけれども、前曲が二次創作をテーマにした曲でその連続性を考えると少し説得力ありませんか?

 

 

7. マエリベリー・ハーンの憂鬱

原曲:魔術師メリー(蓮台野夜行)

 

魔術師メリーはあまりメジャーではないけれど、なかなかクオリティの高い原曲だと思う。なにか恐ろしいことが起こりそうなおどろおどろしい前半から、踊るようなメロディの中盤、なぜか楽しそうな終盤ところころと顔が変わる。

このアレンジは前半のおどろおどろしさというより中盤後半をアレンジしたような感じ。カフェでまったりしてそうな雰囲気のところからじゃあ繰り出そうかみたいな。

なぜそれがメリーの憂鬱になるかというとラストトラックのような関係だから、とかね。

 

メリーが魔術師で董子が現し世の秘術師、じゃあ蓮子は?

 

 

8. いつか沈み行く暗闇の中に

原曲:少女綺想曲 ~ Capriccio(東方幻想郷)

 

アルバムにひとつのレイマリ枠。

原曲がDream battleではなくCariccio、つまり旧作のほうということは今の霊夢になる前の話なのだろうか。絵的にもどこか幼そうな(でも達観してそうな)霊夢と泣きながら眠る魔理沙。

歌詞を見る限りだと、夜の暗闇を恐れる二人同士、先に眠ってしまった魔理沙と起きている霊夢という感じ。

眠っている魔理沙の体温を感じる霊夢、と表現するとエモさがある。霊夢だけ夜の闇を一手に引き受けていると表現するとレイマリの関係の業の深さみたいなものが感じられる。

ラストの一節だけが裏面に記載されている。これの意味するところは難しいけれども、明りを消して霊夢も眠りにつくことで表面の光景は霊夢だけの秘密になるというところだろうか。 

 

 

 

9. 竹藪の中<<阿礼乙女に問われたる花屋の物語>>

10. 竹藪の中<<蓬莱人に問われたる白兎の証言/白澤の独白>>

11 竹藪の中<<  人の慟哭>>

「許されぬものなどけしてありなどしないよう」

原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

 

芥川龍之介の藪の中をモチーフにしたであろう曲。トラック上は3曲に分かれているけれど、1曲とみたほうが自然。ランダム再生の敵でもある。

 

藪の中は著作権が切れているのでこちらで読めます。

藪の中はとある殺人事件について当事者がそれぞれ違うことをのたまって真実がわからないという内容。

本曲も藪の中と同様の構造になっている。

 

と、構造自体はわかっていてもなおこの曲歌詞は難しい。凋叶棕のなかでも屈指の難しさといっていい。

 

まず花屋の語る事実。2人の童が赤銅の獣に襲われて嫌われ者の片方は死に片方は生き延びた。

 

次に白兎(因幡てゐと思われる)の証言。嫌われ者の子は里の誰もが死を望むほどの暴虐さだったとか、襲ってきた銀毛の獣はどこか見た姿だったとか。

証言にゴシップ感があるのがてゐっぽい役回りというか。「どこか見た姿」というからには想像ついてるんじゃないかとも思ってします。そして赤銅と銀毛という違い。

 

そして白澤の独白。上白沢慧音は獣化したハクタク時には歴史を創る程度の能力をもつと設定されている。これがどのような能力かは原作ではあまりはっきりしないが、歴史を改竄するくらいはできるのだろうか。歌詞の内容的には獣による襲撃自体は改竄してそうではある。

ただ、改竄を可能にする能力はどちらかといえば慧音の人間時(歴史を食べる程度の能力)のほうが適しているため(永夜抄的にも)、ひっかかる点ではある。

 

最後に裏面をめくって<<  人の慟哭>>。

妹紅と慧音が描かれているから、蓬莱人か獣人か、それとも両方か。

赤銅の獣というのが慧音説と他の獣説があるが、個人的には後者のほうがすっと理解しやすいように思う。

赤銅の獣が童を襲い、助けようとした妹紅が童の一人を殺めてしまった。それを慧音が歴史を改竄して隠した。これが素直な解釈で、素直すぎるが故にしっくりこない。

もうちょっと複雑な解釈ができそうなところが、難しい。

 

最後の一節の「けして許してくれるな」というのは両方の言葉なのだろう。

妹紅の言葉だとすれば、童を殺めた罪に対しての言葉。慧音の言葉だとすれば、その罪を隠してしまうことについて。

どちらにしても、許されぬものなどはないのだけれど。

 

12. black earth magic

原曲:天空グリニッジ(大空魔術)

 

原曲をの前奏部分っぽい部分をアップテンポにしたアレンジ。

black earthというのがなにかをさしているのかはわからないけど、なんとなくアレンジが黒っぽいのは感じるところ。

原曲のサビっぽい部分が途中うっすら後ろで流れるのがおしゃれ。おしゃれだけどその部分をもうちょっと聞いていたい。

 

 

13. Kirisame Eversion

「与えられるもの以外に。欲しいものを欲しがって。それのどこがいけないのか」

原曲:魔法使いの憂鬱(The Grimoire of Marisa)

   Witch of Love Portion(蓬莱伝説)

 

人間キャラも妖怪じみている東方において魔理沙は「普通の魔法使い」と設定されている。

凋叶棕における魔理沙も人間の「少女」としての側面を負わせられることが多く、この曲も一般にいわれる少女性的なものが出ている。出ていすぎてかえって妖怪じみているかもしれない。

 

この曲の歌詞カードだけ裏面が上下にも反転している。

この曲はおそらくEversionというPCゲーム(フリー/steamにて有料版あり)をモチーフにしていて、反転というものを最も意識しているのだろう。

でも、第三者視点でかかれた表面でも魔理沙視点の裏面の闇が漏れ出ているのはなんともいえない。秘密になりきれてないし秘密にするつもりもないのかもしれない。

 

この曲の裏面の歌詞は本当に良い。世界のすべてが私のものになるべきだとでもいいたげな全能感。でも、魔女の媚薬を使ってやっと手に入れても、それだけではきっと足りなくだろう。

東方の原作で魔理沙の少し低いアイテム回収ラインで蒐集をするたびにこの曲を思い出さずにはいられない。

 

 

14. 宇佐見董子と秘密の箱庭

原曲:緑のサナトリウム(伊弉諾物質)

 

緑のサナトリウムは、平安のエイリアンと似たメロディから始まる。もうそれだけで少し不穏な曲。その後のメロディ展開も、題名も、もうあれもこれも不気味。

 

このアレンジは不気味成分は比較的抑え気味になっている。

このアルバムは宇佐見董子からはじまり、彼女は物理的爆発事故を起こし、原曲がサナトリウムとくると会長はもう・・・となる。

 

原曲で平安のエイリアンっぽかったメロディは月の妖鳥、化猫の幻っぽくなっていて、董子と蓮メリの繋がりというのも示唆されているのかも。

 

 

15. Secret Disclosers

??. Secret Keepers

「秘密は須らく 秘されるものであるのだと」

原曲:少女秘封倶楽部(蓮台野夜行)

 

最後に満を持しての秘封ヴォーカル曲。

CDに入っているSecret Disclosersは2分の短く希望に満ちた曲。Secret Keepersのほうは正反対の曲。

ちなみに、Secret Keepersのほうはこのアルバムの1曲目の入部届にはってあるurlの場所に置いてある

初めて聞いたときは、同じメロディラインだけれどアレンジと歌い方でこんなにも綺麗に反転するのだなあと驚いてしまった。

 

2曲を比べると印象に残るのはやはりKeepers。

「ねえメリー」と凋叶棕の秘封曲のキャッチフレーズからはじまりながら「あなたの目が気持ち悪くて、厭だった」と続く。

少し希望を見せて終わるかと思いきや「ねぇ、本当にそう思うの」と語りかけて終わる。

1曲目の董子が1人の秘封倶楽部の話で、じゃあ蓮メリの2人の秘封倶楽部がハッピーかというとそんなことはないとしてくる。実にらしい。

1曲目の入部届で、クラスメイトに嘲られた言葉の上に貼り付けた修正テープにかかれたurlがこの曲の扉。会長はクラスメイトに絶望し、入部を希望した2人組はお互いに醜い心を隠して関係を築く。なんとも悪趣味。

 

ただ、Secret Keepersがお互いに秘密を隠した欺瞞に満ちた関係をネガティブにだけ歌った曲かと言われるとそうではないのかもしれない。

RD氏は同時期にミソロジアというオリジナルのアルバムを出していて、その中のエクスデウスという曲では未知という暗闇をすべて消し去ったあとのの末路が描かれている。

この曲は直接的には秘封倶楽部を描いたものではないけれど、未知と秘密は少し似ている。互いのすべてを暴きつくすよりは関係が不穏でも秘密が残っていたほうが未来があるのではと思う。

だから、Secret Keepersは実は光の曲なのだ。ほら、特設ページを下までスクロールすると蓮メリの顔も写るしね・・・