司法修習生とは
司法修習生という存在を知っているだろうか。
簡単にいえば
司法試験 → 司法修習(約1年) → 考試(いわゆる二回試験)
二回試験を合格して法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)の資格を得られるのであり、司法修習生はいわば研修生のようなものなのだ。
そんな司法修習生の厳しいお金事情を紹介したい。
修習生が受け取る給付金
まず司法修習生が受けるお金、基本給付金13.5万円。
これは給料とは違って必要経費のない雑所得となるらしい(国税不服審判所の裁決)。
この裁決がどういう意味をもつのか、税金の計算方法の知識が前提となる。
基本的には税金や国民健康保険料は
支払額 = 課税所得 × 税率 - 税額控除額
で考えられる。
課税所得は大雑把にいって
課税所得 = 収入 ー 必要経費 - 控除
となる。
控除にはいろいろあるのだが、給与所得の場合は給与所得控除なるものがある。
簡単にいえば必要経費を差し引けない給与所得者のための「経費分」を差し引く控除である。
つまり
①必要経費がない →課税所得が増え払う税金が増える
②雑所得になる →給与所得控除を得られない → 課税所得が増え払う税金が増える
ということになる。
修習に必要な費用は確かにあり修習先の服務に縛られるわけだけれども、給付金自体は修習の対価ではないといことらしい。
腑に落ちないものがある、ということを代弁してくれているのがこちら
どれくらい手元に残るの?
では司法修習生は実際にどれくらいの財政規模になるのだろうか。
独身・一人暮らし・前年度収入なし・司法修習期間副業なし・40歳未満・千代田区住まい(東京地方裁判所所在地)で考えると以下のようになる。
まず収入は基本給付金13.5万円×11.5か月=155万2500円
※修習は12月半ばで終わるので最後の月は便宜上0.5か月で考える
※修習自体は前年度の12月から始まるが、1か月分の収入くらいなら税金はかからない
※修習開始時期がずれる74期は違った計算になる
国民年金(令和3年・毎月払い)が
16,540円 × 3(1~3月) + 16,610円 × 9(4~12月) = 19万9110円
国民健康保険が
155万2500円 ー 43万円(基礎控除) × 9.29%(医療分と支援金分の税率) + 4.83万円(均等割額)
=15万2500円(100円未満切り捨て)
※国民健康保険料は自治体によって大きく変わる。誤解されがちだが、住民税はほとんど地域差がない
国民年金と国民健康保険の合計が35万1610円になって、この分は税金計算時の控除額になる
所得税が
155万2500円 - 48万円(基礎控除)- 35万7961円(社会保険料控除) × 5%(税率)
= 3.6万円(100円未満切り捨て)
住民税が
162万円 - 43万円(基礎控除)- 35万1610円(社会保険料控除) × 10%(所得割税率)- 2500円(調整控除) + 5000円(均等割額)
= 8.2万円(100円未満切り捨て)
合計で46万9610円
つまり155万2500円の額面うち実に30%近い分は税金と社会保障費で消えていってしまうのだ。
108万2890円がいわゆる手取り額となり、月ベースは約9万円くらいになる。
まあ、国民年金以外は次年度の支払いになるから修習時の痛みにはならないんだけどね。分別のある大人としては翌年度の支払も考えて生活しないとね。
ちなみにもしも給与所得だった場合は、55万円が所得税と住民税の計算で控除されるため、8万2500円ほど支払う税金額が少なくなる。
1月分くらいの手取りに近い大きな影響がある。
実際生活どうなの?
でもここまでは修習に行くまでは予想できた。
ここからは修習前には見えにくかった、修習に行ってから感じた生活の苦しさを紹介しよう。
まず交通費について。
実務修習や選択修習では配属地の裁判所や検察庁へ行くのだけど、その交通費は出ない。仮に交通費を腹を切って支出する場合、その額を必要経費に計上することもできない。
だから裁判所や検察庁に近いところに住むわけだけど、街の中心地になりがちだから家賃は同然高くなる。
家賃はについて。
住宅給付金(月3.5万円)があるからそれなりに賄えるんだけど、必要経費概念がないから住宅給付金も所得になり、支払う税金等も増える。
あと実務修習→集合修習→選択修習の順で修習を行うA班は、集合修習中に住居を維持しないといけない。しかもその間は住宅給付金が支給されない。
あと1年程度で退去することになるから、解約料がかかる場合もある。
引越しについて。
一応移転給付金なるものが出るんだけど実費ではないから多くの場合は足が出る。
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/file1/75_03.pdf
上記資料の最後のページに表があるのが支給基準。
そして二回試験のときの宿泊代。
二回試験は5日間あるから、司法研修所から通える場所に拠点がないといけない。場合によっては、というか多くの人は宿が必要だろう。
あとコロナ世代ならではの悩みとしてネット代。
導入修習や集合修習で1日中動画を見るならば、ネットもそれなりの通信料のものがいい。容量制限のあるスマホ回線のテザリングだと厳しい。
そうすると回線を引いてくるわけで、賃貸に無料でついてるならいいけどそうでないなら月額で4000円くらいはかかる。工事費や撤去費もかかるかもね。
以上の出費が月9万円の手取りに降りかかったうえでようやく食費・光熱費・携帯料金・飲み会代・娯楽費などを考えていくことになる。
どうみても生活が成り立たないよね。
修習専念資金の貸与
実家が太くて甘ければこのような状況を伝えれば援助を受けられるだろう。
そうでない場合は貸与金を借りることになる。まあ奨学金みたいなものだ。
気になる条件は
・月10万円(扶養親族がいない場合)
・利子なし
・返済は修習終了後5年据え置き10年の年賦
・保証人は自然人2人か機関保証(月3000円)
貸与金の条件だけは手放しで喜べる。実家から援助を受けられる人も自然人の保証人を用意できない人も借りといて損はない。インデックス投資でもしておけばいい。
これを併せて月19万円の手取りと考えればほんの少しくらい余裕をもって修習をやっていけるだろう。
100万円を超える将来の借金は残るけど、返済条件も緩いからそれだけなら大きな負担にはならない。大学・予備校通い・ロースクールで奨学金を負担していなければね。
ちなみに私のような前年社会人でばりばり収入がある場合は、前年度の稼ぎ分の税金等が容赦なく降ってくる。ちゃんと貯金してないと貸与金があってもカツカツなのでご注意を。
以前は・・・
修習給付金の移り変わりはこう。
給付制2017~71期~13万5千円10万円雑所得
年 | 期数 | 月額 | 貸与金 | 性質 | 社会保険 | |
---|---|---|---|---|---|---|
給費制 | ~2010 | ~64期 | 20万4200円 | ― | 給与所得 | 裁判所共済組合 |
貸与制 | 2011~2016 | 65期~70期 | 0円 | 23万円 | 国民健康保険 | |
給付制 | 2017~ | 71期~ | 13万5千円 | 10万円 | 雑所得 | 国民健康保険 |
こうしてみると貸与を受けなければ生活できない水準であったとしても貸与制だった時期よりは状況は大きく改善されている。
ただ、上でみてきたように給付金が雑所得だったり社会保険が国民健康保険だったりということで数字上は見えない負担が増えているため、見た目より苦しい状況であることは知っておくべきでしょう。
いずれにせよ、貸与制への移行は司法試験受験者減少に大きく寄与したように思う。
苦労して受かってこの水準で1年過ごすor苦労せずとも受かるほど優秀な人がこの水準で1年を過ごすという選択を好んでとる人はいないだろうから。