四半世記

感想文ページ(ネタバレあり)

ヒカリ文集その2(飛方雪美)

 

蝉のようなペースで新作を出す松浦理英子の新連載、ヒカリ文集。

ファンとしては連載を追える機会はこれが最後かもしれないと思いつつ、私生活で忙しいことがあって、掲載号が発売されてから1年(2019年11月7日発売)たってしまった。

悲しいことにネットでこの連載の感想を書いている人はほとんどおらず、1年間があいても供給がほとんどなかった。ならば自分で作り出すしかあるまい。

 

 

ここまでのあらすじ

 

あくまで私が把握しているものとして。

登場人物たちは大学時代に同じ劇団だった。その劇団NTRの姫で今は行方がわからないヒカリについてそれぞれが好きな形で文章にしてヒカリについての思い出を描く。

 

第2回にして3人目の語り手は飛方雪美。前回までで登場回数も多くそれなりに注目してたなかで順当な登場だと思う。

 

悠高の章ではヒカリに対して「私、けっこう執着してたけどね」と宣言。劇団員たちのなかで最初にヒカリと付き合ったという時系列も明らかになっている。

雪実は現在では一緒に暮らしている女性のパートナー(同性)がいるらしく、男性と結婚した久代や朝奈とは色の違う描か方をしている。

一方で、男性である裕との関係も匂わされている。開幕からなかなかキャラが濃い。

 

そして裕の章では、ヒカリ・裕・雪実の三角形な関係性が描かれていた。 

ヒカリが登場する前の裕と雪実の関係は、性的な興味は伴わないが結構深い友達で、性行為も試してみたものの表面的な接触で終わるとう成り行き。

ヒカリが登場して雪実と付き合い破局し、裕と付き合いやはり破局。その後に3人で会ったときのエピソードが語られている。

 

ここまでのあらすじだけ抜き出しても味付けが濃い。このキャラだけで一冊書けるんじゃないだろうか。

 

 

女テロリストみたい

 

雪実を評したヒカリの表現。もしくは雪実が気に入るように雪実を表現したのかもしれない。

女性が「ペロリと舌を出す」と表現されることが信じられず「あたし」という一人称を使ったことがない。嫌いな作品を語るに嫌悪を隠さず熱弁する。侵略者の兵士には射殺されてもいいから石を投げつけてやりたい。

そういうエピソードからは既存のできあがったものとか強いものに対する反抗心を感じる。キャラクターとしてはわかりやすい。

 

その雪実がヒカリのどの部分に惹かれたかというと、明るそうにみえる人付き合いの仕方に反して時折みせる陰鬱な部分ということ。救われない結末のテネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』が好きだったり、「吊り橋」のエチュードでピンピンしてるのに「うちの親は私を呼ばない」といったり、そういうところ。

 

反対にヒカリが雪実のどのようなところに惹かれたのかは明確には描かれていなかった。雪実目線の話だから当然なのかもしれない。

前回の裕の章で雪実は、「私たち(雪実と裕)を見てるうちに、異性の恋人のような同性の友達や、同性の親友のような異性の恋人がほしくなったんだと思う」と語っていて、今のところはこれが一番近いような気がする。

ただ、雪実と別れる理由の「自分はセクシュアリティがはっきりしないからいつか雪実を傷つける」はぼんやりしててよくわからなかった。もっと別の理由があるような気もする。

現段階でぼんやりと感じるのは、ヒカリの求めてる親密さっていうのは恋愛関係と重なる部分もあるのだけど、恋愛関係として煮詰まっていくと求めてるものからは離れていくんだろうなと。

雪実は、地獄にでも一緒に行きたいと言っていたのだけど、ヒカリがどういう地獄にいたのかを共有することはなかった。そう思うとせつない。

 

「姫」の素質

 

ヒカリについてあまり多くのことがわかったとは言いづらい本章。前回の裕と今回の雪実はヒカリに対して抱く印象にそこまで大きな開きがないからかもしれない。

そんな今回で私が最も気に入った部分。ヒカリが劇団NTRのクラッシャーにならずにいる人たらし的な部分が出たエピソード。

雪実がヒカリとの別れ際に「これは私以外にしないってことを決めてくれない?」と置土産を求めたときの返し。それが「この左記私のバイクの後ろには誰も乗せない。どう?」。

これはモテますわ。ヒカリはたぶんそうするんだと思う。信じさせるものがある。

私もバイクに乗るのでこれが重いというか今後を制限する約束になるということがわかる。移動手段としてもそうだし、二人乗りっていう行為自体が(特に相手がバイクに乗らない人であれば)親密さを示すバロメーターになるから。それをさらっと手放せるのは、ヒカリなりの雪実への誠実さのあらわれなのだと思える。ちょろいかな?

 

そしてこうやって綺麗に別れを演出できるのは、狭い社会空間で相手をとっかえひっかえしてもクラッシュさせない、サークルの「姫」たる素質なんだと思った。

 

今後の楽しみ

ヒカリがどういう考えをもってるのかは今回の話で俄然興味がでてきた。

あと、ヒカリ文集全体としてどれくらいの分量が残っているのか。連載2回目だから序盤のような気がしていたのだけど、悠高・裕・雪実ときて残っているのが久代・優也・朝奈ならこれで半分が終わったことになる。

もう半分?もっと読んでたいんだけど。

2周目はないんですか?、とかヒカリ目線はあるんですか?とか思う反面、ないほうが作品としての完成度は高くなる気もする。ファンとしては悩ましいよ。