四半世記

感想文ページ(ネタバレあり)

ヒカリ文集その4(真岡久代)

 

そろそろ佳境に入ってきたかもしれない松浦理英子の新連載ヒカリ文集。

第3回が2020年9月7日発売の群像10月号で第4回が2021年3月5日発売の群像4月号。

まあまあのペースだと思う。全然いける・・・

 

ここまでのあらすじ

 

今は行方がわからない劇団NTRの姫だったヒカリについて元劇団員たちが文章をよせる形式のヒカリ文集。

前回までで悠高・裕・雪実・朝奈が投稿しており、残る劇団員は久代と優也。

ヒカリと交際した順は雪実→裕→朝奈。

前回の感想で私が予想してたのは優也→久代だったけど久代のほうが先だった。

ここまでで語られたのは久代が悠高の妻で、わりと最近までヒカリと連絡をとれるポジションにいたということ、包容力のありそうなタイプということ。

ヒカリと悠高と久代のどういう三角関係が描かれているのか楽しみ。

 

「私はヒカリに捨てられた仲間たちの屍を背にしてヒカリと向き合っている気分だった」

 

というのが久代のヒカリへのスタンスだった。一言でいえばね。

雪実→裕→朝奈と重ねてきたヒカリの遍歴は劇団内で広く知られているところであり、久代が語る時点では悠高もヒカリに吸い寄せられていた。

そこでとった久代のスタンスがこれというわけだ。

とはいったものの久代がヒカリに全く惹かれないというわけではなく、むしろ惹かれるものがあるからこそ警戒をするというスタンス。

 

一方で久代視点から描かれるヒカリも、ある種恋愛的には極まっていた朝奈との関係を経て恋愛関係そのものに対して明確に線を引いているようになっていた。

その方針転換の煽りをもろに受けてるのが悠高で、久代のフィルターと想像を通して描かれているとはいえ情けない姿を晒しててちょっと好きになった。

なかでも「一晩の内に早漏と不能が起きる」一生に一度の夜をヒカリから「今夜のことは忘れるかもしれないけど」とさらっと流されてたのは笑ってしまった。

 

久代と悠高の間についてはあんまり描かれていない。後に結婚することになるとはいえ、文章の主題がヒカリだから焦点が当たってない感じがする。

描かれている範囲では雪実と裕ほど親密な感じはしない。後に「文字通り」骨を拾うことになるらしい経緯の欠片をもう少し知りたかったような気もする。

この関係は今後語られるかわからない。語られないような予感もする。

 

ともあれ、前半はヒカリに警戒しながら悠高が撃沈する様を眺めつつヒカリと少しずつ距離が近くなる過程が描かれる。

 

久代とヒカリ、似てるか似てないか

 

久代はこれまでの語り手と違って恋愛に対してそれほど強い執着を持っていない。

ヒカリに対して警戒心を持っていたし、それが薄れたあとでもヒカリに対してなにがなんでも恋愛関係になりたいという欲望は読み取れない。

ヒカリからも「久代さんは私のことなんか必要としていなくて」「安心して一緒にいられる」と言われている。

だから、恋愛関係を求めていないヒカリにぴったりな相手にも思える。

 

では久代とヒカリが似ているか、同じ考えを持っているか。

そう聞かれるとそれは違うんじゃなかろうかと思う。

ヒカリは恋愛関係を求めていないことは確かなんだけど、それと違うものは求めているように思えるのだ。それがなにかはこの章を読んでもはっきりとはつかめていないけど・・・

ヒカリの印象的なセリフがある。

久代に、劇団の仲間内でつき合ったことを後悔してるか問われたとき

「それがしてないんだよね。傷つけたのは悪いと思っているよ。だけど、気持ちが最高潮の時の幸福感はつき合っていなかったら手に入らなかったから」

と答えている。

ヒカリはこれまでつき合った相手から幸福感を得ていたと明言されて、相手に求められるからというだけでなく相手に求めるものがあってつき合ったんだということを読んでて思った。これはヒカリのキャラクターに少し安心、すると同時に不安と悲しさを感じさせた。

恋愛関係になることによってヒカリが求めている人間関係の親密さの一部は得られてて、でも恋愛関係になることでそれは失われていく。そんな感じかなー。

 

いずれにせよヒカリには他人との親密さのなかに切実に求めるものがあるんじゃないかと思った。

だから他人に対してそれほど切実になにかを求めないでもいられる久代とは似ているようで似ていない。

悠高からヒカリへの感情に脈がないのと同じで、久代に対してのヒカリは脈がないような状態にみえる。

 

まあこの章では久代とヒカリの関係がどう色褪せたか、破綻をみたのかどうかは語られない。不穏な予感を残しつつも。

この関係の行きついた先は後に語られることになるはず。

 

今後の楽しみ

 

次回は優也になる。さすがに今回は外さないよね?

優也についてはここに至るまでほとんど言及がない。最初の悠高の章からほとんど。

だからやばそうな人という印象しかない。

久代の章で関係性的には煮詰まったところまできたようにみえるヒカリとどうなるのか、戦々恐々という感じ。

 

あと今回なんとなく思ったんだけど、ヒカリが語る章があるんじゃないかなー。ヒカリにしか語れない領域がある、ヒカリ自身のことだから当然のことだけど。

ヒカリが書くとして、どういう形式になるのかは気になる。悠高の戯曲の続きになるのか、別の形式なのか。

あと2周り目はない気がする。これは松浦理英子という作者の人となり的に、同じ人物が2回語るのは無駄があると考えるんじゃないかなというメタ読み。これで外したら恥ずかしいけどね。