四半世記

感想文ページ(ネタバレあり)

密(ひそか) 感想 凋叶棕

さあ、秘密を曝け! 秘密とはそのためにあるのだから!

(公式ホームページより)

 

RD-soundsという方の主催する凋叶棕という音楽サークルがコミックマーケット89(2015年冬)に発売された「密」という東方アレンジアルバムについて

 

 

公式ページ

http://www.rd-sounds.com/c89.html

 

 

曲目は

1. ジ・アフターマス 

 原曲:ラストオカルティズム ~ 現し世の秘術師(東方深秘録)

2. Ms.lonely hedgehog vo.nayuta

 原曲:ラストオカルティズム ~ 現し世の秘術師(東方深秘録)

3. アイ・リトル・ヒーロー vo.めらみぽっぷ

 原曲:信仰は儚き人間の為に(東方風神録)

4. それは時代とともに 

 原曲:夜が降りてくる ~ Evening Star(東方萃夢想)

5.  『我が愛しき密室少女に寄せて』 vo.nayuta

 原曲:ヴアル魔法図書館(東方紅魔郷)

6.  アリス・ザ・エニグマティクドール vo.めらみぽっぷ

 原曲:ブクレシュティの人形師(東方妖々夢)

    人形の森/エニグマティクドール/サーカスレヴァリエ(蓬莱人形)

7. マエリベリー・ハーンの憂鬱 

 原曲:魔術師メリー(蓮台野夜行)

8. いつか沈み行く暗闇の中に vo.めらみぽっぷ

 原曲:少女綺想曲 ~ Capriccio(東方幻想郷)

9. 竹藪の中<<阿礼乙女に問われたる花屋の物語>> vo.Φ串Φ

 原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

10.  竹藪の中<<蓬莱人に問われたる白兎の証言/白澤の独白>> vo.Φ串Φ

 原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

11.  竹藪の中<<  人の慟哭>> vo.Φ串Φ

 原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

12. black earth magic

 原曲:天空グリニッジ(大空魔術)

13. Kirisame Eversion vo.めらみぽっぷ

 原曲:魔法使いの憂鬱(The Grimoire of Marisa)

    Witch of Love Portion(蓬莱伝説)

14. 宇佐見董子と秘密の箱庭

 原曲:緑のサナトリウム(伊弉諾物質)

15. Secret Disclosers vo.めらみぽっぷ/nayuta

 原曲:少女秘封倶楽部(蓮台野夜行)

 

 

密は「秘密」をテーマにしたコンセプトアルバム。

歌詞カードは1枚に閉じられておらず、1曲ごとに1枚になっている。曲が書いてある面がおそらく表で、裏をめくると秘密をみることができるという構造になっている。

表の歌詞と裏の歌詞に分かれているということに意味が付与されている。

 

全体に原曲の選択がマニアックで、上海アリス幻樂団のCDから多くとられている。

一方で、レイマリ・アリス・早苗・秘封倶楽部と凋叶棕が継続的に取り上げているテーマが全部入りになっている。

凋叶棕とはこういうサークルです!ということを端的にあらわしている1枚。

 

 

 

 

 

1. ジ・アフターマス

2. Ms.lonely hedgehog

「でもそれこそ本当は 唯一つ真理だったのかもとも」

原曲:ラストオカルティズム ~ 現し世の秘術師(東方深秘録)

宇佐見董子は、東方深秘録で登場し東方界隈を震撼させたキャラである。

彼女は、東方ナンバリングではじめての完全な外の世界の住人(女子高生)であり、秘封倶楽部の初代会長である。

秘封倶楽部といえば上海アリス幻樂団のCDで展開されている宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンのそれと同じ名称で、宇佐見という苗字も同じで、公式で明言されていなくても関連性を想像してしまう。

そんな問題人物の宇佐見董子は、深秘録のおまけtxtで、自分は他の人間より優れていると思っていた中学時代や自分は他の人間とは違う種族だと思い込んで秘封倶楽部を創設する高校時代が細かめに設定されている。

本曲は、董子のそういう部分を含まらせたアレンジである。

ちなみに深秘録が2015年の5月発売でこのCDが同年12月のコミケで出たから、この人物がRD氏をどれほど惹きつけたのかがわかるというもの。

 

まず歌詞カードがすごい。公式ページの表紙が歌詞であり、画像にマウスカーソルを置くとなにが起こったのかを教えてくれる。

 簡単にいえば自分のクラスを物理的に吹き飛ばしてしまったわけだけど、夢を歩くことができる彼女にはそんな悪夢のような現実を離れることもできる。

けれども、吹き飛ばしたものにひょっとしたら価値があったのではないかと心のどこかで考える。その想いこそが途切れた歌詞カードの先にある秘密であり、裏をめくると秘封倶楽部の入部届だけがある。この虚無感はすごい。

ちなみに、入部届の希望する理由は修正テープが張られているが、表面をみると赤文字でクラスメイトと思しき人からの煽り文句がうっすらみえる。これだけされてもまだそこに価値があったのではないかという董子・・・

これだとあまりにも救いがなさすぎる気がするけど、その後も凋叶棕の董子はこの路線で、RD氏の愛情が伝わってくる。

 

 この歌詞カードはラストトラックとも関係していて、会長1人の秘封倶楽部と蓮メリ二人の秘封倶楽部の対比にもなっている。その辺はラストトラックの項で。

 

余談だけど、vocalのnayutaさんは古くからniconico動画に親しんでる人には馴染み深い人で、凋叶棕のvocalで登場したときは懐かしく嬉しかった。初登場は前作の喩だが、今作で4曲、アルバム的にも重要な曲を担当したことで今後も継続することを確信した思い出。

 

 

3. アイ・リトル・ヒーロー

「ヒーローはいつも無敵だから!」

 原曲:信仰は儚き人間の為に(東方風神録)

 

シリアスも電波もギャグもこなせる凋叶棕のオールラウンダー、早苗曲。

前曲とまったく対照的な明るさをもつこの曲、この配置はきっと偶然ではないだろう。

董子と早苗は外の世界の女子高生である(あった)という共通点がある。

しかしこの非対称はどうしたことだろう。早苗は原作でも幻想郷に適応している性格をみているせいか、正義の使者を自称してても痛々しさはあんまりないし、クラスから浮いてようとも楽しくやってそうな感じもする。

やはり人でとどまる者と現人神になる器の者の違いなのだろうか。

 

 

4. それは時代と共に

原曲:夜が降りてくる ~ Evening Star(東方萃夢想)

 

凋叶棕の八雲紫はほぼほぼ秘封枠である。そう考えるとこのアルバムのインストはすべて秘封関連で統一されている。

夜が降りてくるはたびたびアレンジされているが、単独でテーマになっているのは一作目の宴以来だから久しぶり。

 

原曲のアップテンポ感とオシャレ感がアレンジを経ても生きていて、かなり原曲みがある。個人的にはこのアルバムで最も原曲を感じる。

 

 

5. 『我が愛しき密室少女に寄せて』

「ああ本当の主従を教えます!」

原曲:ヴアル魔法図書館(東方紅魔郷)

 

二次創作をテーマにした今作のほのぼの枠。主パチュリーでカップリング妄想をする小悪魔曲。

表面はまさに同人誌、表面の歌詞は裏にも記載されていて、さながら公然の秘密。

咲夜と魔理沙と小悪魔、どのカップリングにおいても主を受けにしてるのが不届き物の下僕。

 

この曲はとても可愛くほほえましい曲なのだけれど、小悪魔は原作ではとくに設定がなくこういうキャラ付け自体がとても二次創作的なので、二次創作の多層構造を感じる。

二次創作はある種キャラに肉付けをして新たな秘密を作り出すような側面もあるので、この曲がアルバムの真ん中付近に位置していることには重要な意味があるのかもしれない。

 

  

6. アリス・ザ・エニグマティクドール

「秘密なき、この姿にきっと僕は焦がれていたんだ」

原曲:ブクレシュティの人形師(東方妖々夢)

   人形の森/エニグマティクドール/サーカスレヴァリエ(蓬莱人形)

 

ザ・アリス曲。

東方のなかでRD氏が最も愛しているであろうキャラがアリスで、純粋な歌のなかでは凋叶棕史上最長の長さをほこるこの力作。長いけれども盛り上がるメロディがふんだんに使われていて長さを感じない。

なかでも「この扉を開いたとき」の高音は秘密を除き見たときの高揚感みたいなのが感じられて気持ちいい。

 

内容としては、アリスの人形劇を見ていた少年がその魔法の秘密を暴こうとして返り討ちにされてしまい九人目の人形にされてしまう、というもの・・・だと思う。

題名が描いてあるほうが表面だとすれば、九人の仲間たちの演目が題名が表に残った現実で、裏面は少年の末路として知られざる演目になることとなる。

ただし、私は初開封時を覚えていないのだが、凋叶棕wikiによると題名のないほうが表面として封入されているらしい。とすると、少年に関する演目はそれ自体が一種の劇という見方もできるかもしれない。アリスも糸で操られているし。

 

RD氏があまりにアリスを愛しすぎてるから、このアリスに魅入られた少年がRD氏で、アリスの演目の一部になっているという妄想をしたことがある。かなり飛躍しているけれども、前曲が二次創作をテーマにした曲でその連続性を考えると少し説得力ありませんか?

 

 

7. マエリベリー・ハーンの憂鬱

原曲:魔術師メリー(蓮台野夜行)

 

魔術師メリーはあまりメジャーではないけれど、なかなかクオリティの高い原曲だと思う。なにか恐ろしいことが起こりそうなおどろおどろしい前半から、踊るようなメロディの中盤、なぜか楽しそうな終盤ところころと顔が変わる。

このアレンジは前半のおどろおどろしさというより中盤後半をアレンジしたような感じ。カフェでまったりしてそうな雰囲気のところからじゃあ繰り出そうかみたいな。

なぜそれがメリーの憂鬱になるかというとラストトラックのような関係だから、とかね。

 

メリーが魔術師で董子が現し世の秘術師、じゃあ蓮子は?

 

 

8. いつか沈み行く暗闇の中に

原曲:少女綺想曲 ~ Capriccio(東方幻想郷)

 

アルバムにひとつのレイマリ枠。

原曲がDream battleではなくCariccio、つまり旧作のほうということは今の霊夢になる前の話なのだろうか。絵的にもどこか幼そうな(でも達観してそうな)霊夢と泣きながら眠る魔理沙。

歌詞を見る限りだと、夜の暗闇を恐れる二人同士、先に眠ってしまった魔理沙と起きている霊夢という感じ。

眠っている魔理沙の体温を感じる霊夢、と表現するとエモさがある。霊夢だけ夜の闇を一手に引き受けていると表現するとレイマリの関係の業の深さみたいなものが感じられる。

ラストの一節だけが裏面に記載されている。これの意味するところは難しいけれども、明りを消して霊夢も眠りにつくことで表面の光景は霊夢だけの秘密になるというところだろうか。 

 

 

 

9. 竹藪の中<<阿礼乙女に問われたる花屋の物語>>

10. 竹藪の中<<蓬莱人に問われたる白兎の証言/白澤の独白>>

11 竹藪の中<<  人の慟哭>>

「許されぬものなどけしてありなどしないよう」

原曲:プレインエイジア(東方永夜抄)

 

芥川龍之介の藪の中をモチーフにしたであろう曲。トラック上は3曲に分かれているけれど、1曲とみたほうが自然。ランダム再生の敵でもある。

 

藪の中は著作権が切れているのでこちらで読めます。

藪の中はとある殺人事件について当事者がそれぞれ違うことをのたまって真実がわからないという内容。

本曲も藪の中と同様の構造になっている。

 

と、構造自体はわかっていてもなおこの曲歌詞は難しい。凋叶棕のなかでも屈指の難しさといっていい。

 

まず花屋の語る事実。2人の童が赤銅の獣に襲われて嫌われ者の片方は死に片方は生き延びた。

 

次に白兎(因幡てゐと思われる)の証言。嫌われ者の子は里の誰もが死を望むほどの暴虐さだったとか、襲ってきた銀毛の獣はどこか見た姿だったとか。

証言にゴシップ感があるのがてゐっぽい役回りというか。「どこか見た姿」というからには想像ついてるんじゃないかとも思ってします。そして赤銅と銀毛という違い。

 

そして白澤の独白。上白沢慧音は獣化したハクタク時には歴史を創る程度の能力をもつと設定されている。これがどのような能力かは原作ではあまりはっきりしないが、歴史を改竄するくらいはできるのだろうか。歌詞の内容的には獣による襲撃自体は改竄してそうではある。

ただ、改竄を可能にする能力はどちらかといえば慧音の人間時(歴史を食べる程度の能力)のほうが適しているため(永夜抄的にも)、ひっかかる点ではある。

 

最後に裏面をめくって<<  人の慟哭>>。

妹紅と慧音が描かれているから、蓬莱人か獣人か、それとも両方か。

赤銅の獣というのが慧音説と他の獣説があるが、個人的には後者のほうがすっと理解しやすいように思う。

赤銅の獣が童を襲い、助けようとした妹紅が童の一人を殺めてしまった。それを慧音が歴史を改竄して隠した。これが素直な解釈で、素直すぎるが故にしっくりこない。

もうちょっと複雑な解釈ができそうなところが、難しい。

 

最後の一節の「けして許してくれるな」というのは両方の言葉なのだろう。

妹紅の言葉だとすれば、童を殺めた罪に対しての言葉。慧音の言葉だとすれば、その罪を隠してしまうことについて。

どちらにしても、許されぬものなどはないのだけれど。

 

12. black earth magic

原曲:天空グリニッジ(大空魔術)

 

原曲をの前奏部分っぽい部分をアップテンポにしたアレンジ。

black earthというのがなにかをさしているのかはわからないけど、なんとなくアレンジが黒っぽいのは感じるところ。

原曲のサビっぽい部分が途中うっすら後ろで流れるのがおしゃれ。おしゃれだけどその部分をもうちょっと聞いていたい。

 

 

13. Kirisame Eversion

「与えられるもの以外に。欲しいものを欲しがって。それのどこがいけないのか」

原曲:魔法使いの憂鬱(The Grimoire of Marisa)

   Witch of Love Portion(蓬莱伝説)

 

人間キャラも妖怪じみている東方において魔理沙は「普通の魔法使い」と設定されている。

凋叶棕における魔理沙も人間の「少女」としての側面を負わせられることが多く、この曲も一般にいわれる少女性的なものが出ている。出ていすぎてかえって妖怪じみているかもしれない。

 

この曲の歌詞カードだけ裏面が上下にも反転している。

この曲はおそらくEversionというPCゲーム(フリー/steamにて有料版あり)をモチーフにしていて、反転というものを最も意識しているのだろう。

でも、第三者視点でかかれた表面でも魔理沙視点の裏面の闇が漏れ出ているのはなんともいえない。秘密になりきれてないし秘密にするつもりもないのかもしれない。

 

この曲の裏面の歌詞は本当に良い。世界のすべてが私のものになるべきだとでもいいたげな全能感。でも、魔女の媚薬を使ってやっと手に入れても、それだけではきっと足りなくだろう。

東方の原作で魔理沙の少し低いアイテム回収ラインで蒐集をするたびにこの曲を思い出さずにはいられない。

 

 

14. 宇佐見董子と秘密の箱庭

原曲:緑のサナトリウム(伊弉諾物質)

 

緑のサナトリウムは、平安のエイリアンと似たメロディから始まる。もうそれだけで少し不穏な曲。その後のメロディ展開も、題名も、もうあれもこれも不気味。

 

このアレンジは不気味成分は比較的抑え気味になっている。

このアルバムは宇佐見董子からはじまり、彼女は物理的爆発事故を起こし、原曲がサナトリウムとくると会長はもう・・・となる。

 

原曲で平安のエイリアンっぽかったメロディは月の妖鳥、化猫の幻っぽくなっていて、董子と蓮メリの繋がりというのも示唆されているのかも。

 

 

15. Secret Disclosers

??. Secret Keepers

「秘密は須らく 秘されるものであるのだと」

原曲:少女秘封倶楽部(蓮台野夜行)

 

最後に満を持しての秘封ヴォーカル曲。

CDに入っているSecret Disclosersは2分の短く希望に満ちた曲。Secret Keepersのほうは正反対の曲。

ちなみに、Secret Keepersのほうはこのアルバムの1曲目の入部届にはってあるurlの場所に置いてある

初めて聞いたときは、同じメロディラインだけれどアレンジと歌い方でこんなにも綺麗に反転するのだなあと驚いてしまった。

 

2曲を比べると印象に残るのはやはりKeepers。

「ねえメリー」と凋叶棕の秘封曲のキャッチフレーズからはじまりながら「あなたの目が気持ち悪くて、厭だった」と続く。

少し希望を見せて終わるかと思いきや「ねぇ、本当にそう思うの」と語りかけて終わる。

1曲目の董子が1人の秘封倶楽部の話で、じゃあ蓮メリの2人の秘封倶楽部がハッピーかというとそんなことはないとしてくる。実にらしい。

1曲目の入部届で、クラスメイトに嘲られた言葉の上に貼り付けた修正テープにかかれたurlがこの曲の扉。会長はクラスメイトに絶望し、入部を希望した2人組はお互いに醜い心を隠して関係を築く。なんとも悪趣味。

 

ただ、Secret Keepersがお互いに秘密を隠した欺瞞に満ちた関係をネガティブにだけ歌った曲かと言われるとそうではないのかもしれない。

RD氏は同時期にミソロジアというオリジナルのアルバムを出していて、その中のエクスデウスという曲では未知という暗闇をすべて消し去ったあとのの末路が描かれている。

この曲は直接的には秘封倶楽部を描いたものではないけれど、未知と秘密は少し似ている。互いのすべてを暴きつくすよりは関係が不穏でも秘密が残っていたほうが未来があるのではと思う。

だから、Secret Keepersは実は光の曲なのだ。ほら、特設ページを下までスクロールすると蓮メリの顔も写るしね・・・

 

 

ミソロジア 感想 Feuille-Morte

人は神話と共に生きてきた

(公式ホームページ紹介文より)

 

RD-soundsという方の主催するFeuille-Morteという音楽サークルが2015年秋のM3で発売した「ミソロジア」というオリジナル・ファンタジー・アルバムについて

 

公式ページ

http://www.feuille-morte.com/mythologia.html

 

ミソロジアは公式ページの紹介のとおり、神話の始まり・変遷・その終わりをテーマにすえたアルバム。

私が推しているRD-soundsという方は東方projectの二次創作サークルである凋叶棕での活動のほうが著名かもしれないが、こちらはオリジナルなので東方を知らない人にもおすすめできる。コンセプトが明確でファンタジー色の強いメロディが特徴なので、初めての1枚として是非に。

一方で、Feuille-Morteとしての次作である『ワンダリア』と比べて行間が多いため、詳細まで解釈しようとすると難しいところもある。この記事で書くのは考察というより感想・妄想よりなのでふーん、と読んでもらえれば。

 

曲目は

1. 「ミソロジア」 vo.めらみぽっぷ

2. 「River」 vo.めらみぽっぷ

3. 「あらしのうた」 vo.めらみぽっぷ

4. 「ポラリス」 vo.中惠光城

5. 「エクスデウス」 vo.めらみぽっぷ

6. (すいへいせんのむこうがわ) vo.めらみぽっぷ

 

 

概観すると、

1曲目のミソロジアが神話についての総論で、

2~5曲目がそれぞれ独立した神話、5曲目については神話の終わり

そして6曲目は新たな始まりを題材にしていると思われる。

 

 

 

 

 

1. ミソロジア 

「けしてそれらは 暴かれず」

 

神話の総論について。

神話は人にとって闇を照らすためのものであった。

歌詞にあるとおり、星々とか雷とか自然的なものの、そして過去の人の行いも物語として語られる。語られることによって明らかにされ、闇を照らす。 

語られたこと自体も過去のものとなり、それは語り手不明の神々のことばとして神話となる。

これが公式ホームページの試聴部分の歌詞の紹介だが、コンセプトが素晴らしい。歴史としてのリアルと厨二心をくすぐる創作性の両面を兼ねそろえた歌詞、神秘的で荘厳なメロディ。できれば試聴を聞いて、フルで聞いてほしい曲。

 

この曲の難しいところは歌詞カードの絵と中盤の歌詞にある。

歌詞カードの絵は博物館のような場所に絵から抜け出した少女。絵は神話そのもので、抜け出している少女は神話の擬人化だろうか。絵画から抜け出しているのは、暗闇を文明の力で振り払った今でも人の手のなかで神話が息づいていることを示しているとか。

多数の人のシルエットのなかで一人だけ振り返っている人がいるけど、これも重要な意味がありそう。この絵の状況はある程度文明が進んでいる時代だと思われるので、実際に手のなかで神々の言葉を握りしてめているのはほんの一部の人で、多くの人はまさに絵空事としてしかみてないとか。

 

中盤の歌詞については、『創生』『守護』『争い』『繁栄』の4つの神話が示されていいて、RD氏の作り方的には2~5曲目をあらわしているようにも思えるけど、しっくりとこない感じもある。

あらしのうたが『守護』でエクスデウスが『繁栄』というのはわかるけど、Riverが『創生』でポラリスが『争い』というのはうーんという感じ。完全にイメージが一致しないというか。これは各曲の考察が足りないのかもしれない。

 

そして、「けしてそれらは 暴かれず」という歌詞。

神話は暴かれないからこそ価値があり、実はこういうことだったんだとか暴かれてしまうと神秘性は失われる。でも人はそれをせずにはいられない。

神話も人が語ったものとするならば、人はかつて自分たちが創造したものを自分たちの手で暴いて打ち捨てるということになる。この矛盾というか、二律背反というか、性というか、そういうものがたまらない。

 

 

2. River

「待つことの 苦しさよりも 時が この身を苛む」

 

この曲で語られる神話は、紅い河のほとりで彼を交わした再会の約束を信じた少女がいつまでも待ち続けて・・・という内容。

待つことよりも時がすぎて身体が朽ちていくのが障害で、待ち続けるために永遠が欲しい。なんとも眩しい感情。歌詞的には最終的に入水したのだろうか。 

 

この歌のポイントは、歌詞カードの絵に人が描かれていないことだと思う。人物の影すらもないのはこの曲だけ。

だから、実際にそういう少女がいたかどうかそれ自体もわからないということだと思う。待ってる少女がいてそれを人々が語ったのか、河のほとりの紅い花をみて人々が話を創造したのか、それさえもわからない。まさにそれこそが神話の原点。そういう意味では 『創生』要素があるのかもしれない。四大文明が河のほとりから始まったというのも『創生』要素。そう考えると結構あるかも。

 

待つことが苦痛でないというのはなんとも清らかな感情で個人的には理解を超えるけれど、そういう感情さえも神話の一部だと考えるとしっくりくる。

花という人よりも儚いものに永遠をこめるのはなんともおしゃれ。

 

 

3. あらしのうた

「ただただ信じるものの狂人さは」

 

とにかく力強い歌。

神話を信じない人がでてきた時代に、あらしのよるにすがたをあらわすという古びた神話を信じて待ち続けた少女の話。最終的にはその少女も神話として語られるという構造をもつ。語り継がれることでその姿を変えていくという神話の性質の歌でもある。

 

この曲はサビに至るまでのメロディがすごくかっこいい。特に「今はもう~」と「失くしつつ~」という部分。信じるということの力強さ恐ろしさがわかる。

その力強さが結果的にどうなったか。あらしのよるに彼女は神話のとおりその存在に会えたのか、あるいは嵐に吹き飛ばされて天に召されて亡骸さえも行方不明になったのか、どちらなのかはわからない。わからないからこそ彼女は新たな神話になったのだろう。

個人的には後者だと思ってしまうけれども、その信仰心はまさに神話のよう。

 

 

4. ポラリス

「その不動の輝きただ一つ」

 

この曲は「ホシノウタ」という今はもう入手困難なCDが初出であり、やや趣を異にする。

 

歌詞カードの絵では制服がでてきてかなり現代的な世界になっている。

うごかないからだをかかえている少女が、同じく動かない北極星に、誰かの希望になりたいという自分の希望を仮託する内容。人に方角を示し続けてきた北極星が、その示し続けてきたという神話ゆえに別の形で人の希望になるという構造をもつ。

この曲において北極星は少女の希望になっているが、同時に人と神話の距離も感じる曲となっている。前2曲と違って少女は神話にならないし、北極星と少女の繋がりを認識する他人もいない。人工灯の輝く世界では目を凝らさないと北極星自体見えないし、文明が正常に機能していれば見る必要もない。今はスマホをつければ方位磁石が出る時代なのだ。

だから、再び人にとって北極星が必要になるのは世界が再び闇に包まれたとき、文明が滅んだときになる。

 

 

5. エクスデウス

「もはや暴かれず 暴きつくした成れの果てとなる」

 

人があらゆる闇を打ち払った未来の世界の話。歌詞カードの白い世界が眩しい。

秘密を暴く、二人というモチーフが東方の秘封倶楽部を想起させる。凋叶棕での『密』というアルバムが近い時期に出されていることからも、テーマとしての類似性がある、かもしれない。

 

この歌ほど終焉という言葉が似あうものはない。

デウス・エクス・マキナという古代ギリシア演劇の終わりの手法は、いわば神の一声のようなもので演劇を強引に終わらせるものとして評価されている。

その言葉をひっくり返した遥か未来の話であるエクスデウスという名のこの曲は、世界を暴きつくした果てに最後の闇である相手の存在を手にかけて片方が一人残る、最も自然で救いのない終わりを描いている。

ただ、歌詞中ではエクスデウスはこの二人ではなく”神だったもの”のほうにふられている。

 

「もはや暴かれず 暴きつくした成れ果てとなる」

このフレーズは凋叶棕やその他提供曲も含めてRD氏の歌詞のなかで最も好きな歌詞。ミソロジアとの対比がとても美しい。

このような状況がもし未来にあるのだとしたら、この神話は誰にも観測されない。このような状況に至る前の、過去でしか創造されない。ゆえにけして暴かれない不可侵の神話。最後にその手の中に残るのは成れの果てはそういうものなのだ。

 

 

6. (すいへいせんのむこうがわ) 

 

歌詞がすごい曲

ぱっと見てまったく読めない歌詞は、しかしある程度読めるというのがすごいところ。

 基本的には表音文字だが、水平線とか空とか波とかこの曲のなかでモチーフとなっているものは表意文字になっている。

 

世界観的には一度文明が終わったあとにまた別の文明がおこった感じだろうか。未知の世界へ踏み出す輝かしさが全面に出たすがすがしい歌。だが、それだけではない気もする。

この曲は歌詞に阻まれて読み取り切れないが、中盤に4つほど神話らしき表記がある。ここがなんて言っているかわからないようにしてるのはなんとも憎い演出。

そして、「あすなきたみとして」「きのうなきたみとして」という部分も少し不穏なものを感じないでもない。中盤の部分はめらみさんの声色が少し変えてある部分でもあり、前の世界との繋がりを匂わされているような気もする。

読み取り切れないようにつくってあるのはたぶんわざとで、そうして未知の世界に繰り出すことを演出してるのだと思う。

そしていつしか彼女も・・・

 

 

おすすめポイント

 

特にミソロジアとエクスデウスがおすすめ。神話というテーマが好みなのもあって、そのテーマをストレートに反映してる歌詞に惹かれる。

冒頭でも述べたけど、このブログで度々紹介しているRD-soundsという方の作品の、初めての1枚としても聞きやすいと思います。

逆(さかさ)感想 凋叶棕

ヒエラルキーを覆そうとする攻撃的な物語たち。しかしそれは、哀れにも・・・・・・

(CD帯文より)

 

RD-soundsという方の主催する凋叶棕という音楽サークルがコミックマーケット94(2018年夏)に発売する予定で、6月8日に発売された「逆」という東方アレンジアルバムについて

 

 

公式ページ

http://www.rd-sounds.com/c94_seal_inside.html

 

 

逆(さかさ)は、「逆転」をテーマにしたコンセプトアルバム。

東方で逆転をテーマにしたキャラといえば鬼人正邪。ということで彼女が大きくフューチャーされている。公式ページurlの「inside」の部分を「outside」に変えると、正邪のためのページに行くことができる。

他にも、C94の発表日である6月8日に発売されたとか、歌詞カードを真ん中から折り返すと本来の曲順になるとか、正邪の曲だけ曲目リストになくてCD帯文裏に記載されているとか、様々な「逆転」要素がちりばめられている。

 

 

 

曲目は

1. Uprising Ideology vo.めらみぽっぷ

 原曲:リバースイデオロギー(東方輝針城)

2. ノーモア、エニモア?モアーモア?! vo.めらみぽっぷ

 原曲:永遠の巫女(東方靈異伝)

3. ヘクセン・タンツは斯くの如くに 

 原曲:魔女達の舞踏会 ~Megus(秋霜玉)

4. 至天 vo.めらみぽっぷ/nayuta

 原曲:クレイジーバックダンサーズ(東方天空璋)

5.  revoke 

 原曲:秘神マターラ ~Hidden Star in All Seasons.(東方天空璋)

6. 『異聞』正義の味方 vo.めらみぽっぷ

 原曲:輝く針の小人続 ~Little Princess(東方輝針城)

7. 交響詩「魔帝」より Ⅱ.神話幻想 

 原曲:神話幻想 ~ Infinite Being(東方怪綺談)

8. アノインシスター vo.めらみぽっぷ

 原曲:ハルトマンの妖怪少女(東方地霊殿)

9. Enslaved 

 原曲:古きユアンシェン(東方神霊廟)

10.  話九十九節 vo.めらみぽっぷ/nayuta

 原曲:幻想浄瑠璃(東方輝針城)

11.  Downfalling Ideology vo.めらみぽっぷ

 原曲:リバースイデオロギー(東方輝針城)

 

 

7つのボーカル曲のうち4つが輝針城からとなっている。全体からみても11曲中7曲が神霊廟以後からきており、新しめの曲が原曲が多い。

新しいモチーフが多いということは、二次創作の文脈の蓄積も少ないということなので、初心者に優しい。

今回はキャッチーに盛り上がるフレーズも多いので、凋叶棕入りたての人にも強くおすすめできる。

もちろん凋叶棕に慣れてる人は必聴。

 

 

 

 

 

1. Uprising Ideology 

「お前がかつて抱いた感情 それがお前の正義だろう!?」

原曲:リバースイデオロギー(東方輝針城)

 

 逆というアルバムは鬼人正邪のための一枚である。

ライブナンバーっぽく煽り口上が用意されているけど言い慣れてないっぽい感じが演出されていて微笑ましく思えてしまう。

内容的にはトラック6と11と一体であるといえるため、詳細はそちらに譲る。

強調しておきたいのは、正邪の曲部分は公式ページで「かくも哀れな物語達」と位置付けられていること。

 

 

2. ノーモア、エニモア?モアーモア?!

「もしかして空飛ぶのは、堕ちるときの気持ちよさ—―?」

 原曲:永遠の巫女(東方靈異伝)

 

原作でも二次創作でも妖怪たちをしばいてる博麗霊夢のイメージ逆転ソング。

被弾して堕ちていく毎日、そんなのもういやだ?それとももっともっと?

後者の意味でとるとドM巫女という姿がみえてきてしまう。墜ちるではなく堕ちるという文字を使ってるのも性癖を感じる。

 

しかし、ファンタジーっぽく聞こえるこの曲は実は弾幕シューターの日常なのである。

ほとんどのシューターは数えきれない被弾の後にクリアに辿り着くのであり、なんど被弾れても「もっと!もっと!」と求めてしまうのは他ならぬシューターたちなのである。

クリアできなくて「これでいいんじゃない?」(やっぱダメかな、ダメよね・・・?)と葛藤するのもシューターたちのしがない現実。そしてなかには完堕ちしてしまう人も・・・?

 

頭が春なようにみえて現実の厳しさを突きつけてくるシビアな一曲なのである。

 

 

3. ヘクセン・タンツは斯くの如くに

原曲:魔女達の舞踏会 ~Megus(秋霜玉)

 

西方projectの秋霜玉という作品に魔理沙が霊夢とともにゲスト出演したExステージのテーマ曲が原曲。

ヘクセン・タンツは魔女の舞踏会をドイツ語にしたものと思われる。

 

このアレンジはかなり原曲に忠実である。

原曲はそこはかとない魔女っぽさがあるのだけれど、魔理沙本人にはあまりない。だから、原曲に忠実にするほど魔理沙っぽくなくなっていく。

そこが逆転要素の一つなのだと思ったり。

 

 ちなみに凋叶棕楽曲では魔理沙の魔女イメージはマッドパーティー(綴・改)で開拓されている。

 

 

4. 至天

「人の魂の器の弱さよ その為に今 われらがある!」

原曲:クレイジーバックダンサーズ(東方天空璋)

 

クレイジーバックダンサーズは天空璋5面ボスである爾子田里乃と丁礼田舞のボス戦BGMである。

このバックダンサーズである二童子は天空璋のラスボスである摩多羅隠岐奈の部下であり、魔力によって使役されている支配関係がある。バックダンサーズは隠岐奈の魔力によって人間でなくなり、隠岐奈の意のままに踊る存在である。

この二人の設定は結構凄惨にみえて東方では重い設定に入る。

 

この曲はその設定を逆転させて、この二童子が主を選別するような歌詞になっている。

我らがなにもかも捧げるから血も肉も骨も心も魂も失ってもその座にすすみ偉大なるものであれ、と。

これぞまさに信仰の本質というか、人が神になることの恐ろしさが描かれていると思う。風神録・星蓮船・神霊廟の宗教三部作でなく天空璋からこの内容の曲が出てくるという意味で。

 

音的な感想としては、ツインボーカルの凄まじさが際立っている。自分で歌ったら喉が潰れるんじゃないかという部分があるのだけど、そこで二人の声がピッタリ合っている。

その他の部分は畳みかけるように被せる歌い方なので、その超高音部分が映えるのだ。

あと「さあ さあ さあさあ!!」のひとつずつ声色が違うところもすごく好き。

アルバムの中からクオリティの高さで選ぶならこの一曲になると思う。

 

 

5. Revoke

原曲:秘神マターラ ~Hidden Star in All Seasons.(東方天空璋)

 

前曲を受けての天空璋のラスボスである摩多羅隠岐奈のインスト。

隠岐奈は東方史上初の6面とExボス単独兼任なので、テーマソングも二つある。そのなかでExのテーマである秘神マターラを選んできた意味とは。

Exのほうが隠岐奈の真の姿を表しているということになっている。混沌とした神の姿の集合体、ひとつの確固たる独立の存在でなく。

それは二童子の献身を失えば、取り消し(Revoke)されてしまえば力は失うということだろうか。

しかし一方で、天空璋では隠岐奈は二童子の後継者を探していたのであり、隠岐奈が二人に与えた力を取り消すという意味にもとらえられる。前曲を踏まえるとこの方向も逆転要素がある。

どちらがいいでしょうかね。

 

 

6. 『異聞』正義の味方

「嗚呼、何故!何故かと訊いたのか? 己見下げる影よ。何故“道具”が意義を問う」

原曲:輝く針の小人続 ~Little Princess(東方輝針城)

 

この曲は四次創作ともいうべき背景がある。

まず、東方輝針城が大元である。下剋上をたくらむ天邪鬼である鬼人正邪が、小人族の姫である少名針妙丸が嘘の歴史を吹き込んで打ち出の小槌を使わせ、弱者による反逆の異変を起こす。そして、異変が解決されたら針妙丸を見捨てて逃げる。

この輝針城のストーリーをもとにした二次創作、凋叶棕の奉というアルバムにて『 輝針「セイギノミカタ」』という曲がある。騙し騙された関係であるとはいえ、与するもの一人としていないお互いが“正義”の名のもとに手を組んだという面が強調された内容となっている。概ね、騙されてなお自らの“正義”を貫く針妙丸がカッコよくみえる曲となっている。

その三次創作として、幻想物語寄稿集‐金‐という凋叶棕の東方アレンジをテーマにした短編小説集の一作として、「正義の味方」という小説がある。こちらは、正邪は針妙丸が小槌に産み出した“道具”としての存在であり、正邪の讒言もすべて針妙丸が仕組んだものだった。そして、利用された正邪は誰からも顧みられることなく小槌に回収された、という内容である。まさに輝針城のストーリーの逆転。

そして、その小説をもとにした楽曲としてこの曲が存在する。ここまでネタばらししてしまえばこの曲の描くところは明らかであろう。歌詞カード絵も針妙丸が正邪を糸で操っている。正邪の二曲に対する「哀れな物語達」という形容も納得できてしまうところである。

 

輝針「セイギノミカタ」が正統派な二次創作であるのに対して『異聞』正義の味方はラディカルな二次創作になると思う。しかし、ラディカルなほうに“正義の味方”と漢字で命名されているのは逆転みを感じる。

正邪という存在が、予定調和な異変の解決を基本とする東方のなかで異変終了後もなお対立構造があるという点で、イレギュラーな存在であり、それに対する一つの解釈という感覚がある。

いずれにせよ、どちらの曲においても針妙丸はかっこいい。ダークヒーローとしても、むしろそのほうがかっこいい。「何故」と何度問われようと正義は揺らがないのだ。

姫というのは傲慢であればあるほどいい。

 

ちなみに、この曲は作詞とアレンジは小説「正義の味方」の作者であるとものはという方がされていることとなっている。

曲を聴くまではゲスト参加かな?と思ったりもしたけれど、こういう曲をつくれる人は世界にも数人といないだろう。まさに裏で影を引くこの針妙丸像はこの人から産まれたのだとわかる。

 

 

7. 交響詩「魔帝」より Ⅱ.神話幻想

原曲:神話幻想 ~ Infinite Being(東方怪綺談)

 

交響詩「魔帝」シリーズは徒というアルバムで「Ⅲ.戴冠式」が出ている。徒は2013年なので5年ぶりにつくられたということになる。

戴冠式のほうの原曲はフクレシュティの人形師であり、アリスの曲だった。そしてⅡのほうの原曲は神話幻想、つまり神綺の曲である。

神綺とアリスといえば魔界の創造主と魔界人である。ただ、戴冠式の原曲がブクレシュティであり今回の神話幻想にもブクレシュティの曲が使われていることを考えると、Win版のアリスが関係していることとなる。

旧作アリスとWin版アリスの関係は謎多き点なので今はそっとしておく。

 

 

8. アノインシスター

「だからダメなんだよ、お姉ちゃんはね。」

原曲:ハルトマンの妖怪少女(東方地霊殿)

 

メロンブックスの紹介文によると「ロックでパワフルなアレンジに乗せお届けする」本作であるが、この曲はそのコンセプトから少し離れてるかもしれない。でも刺さる人にはすごく刺さる曲。この曲が一番良かったという人も一定数いそう。

 

「だからダメなんだよ、お姉ちゃんはね。」という1フレーズでこの曲は言い表すことができる。古明地姉妹の厄介な姉妹関係。

「だからwだめなんだよw おねwえwちゃんwはwねwww」というめらみさんの歌い方がとても素晴らしい。

アノインシスターはannoying sisterが自然な読み方だけど、あの陰(キャ)お姉ちゃんがハイセンスだと思う。

 

ころころ調子をかえてさえずりまわるこいしがそれこそ「くるっと回って可愛い」。

姉に対して優越感?嫉妬?執着?いろいろな感情が「狂っと」してて万華鏡のよう。ところどころくるっとブーメランしてるようなのもご愛敬。

だけれど、歌詞カード中の□■の部分を見る限り、こいしの表情も声も心も、もしかしたら存在もさとりは認識できてない(してない)で一切伝わってない。

そこがたまらなく古明地姉妹。

 

厄介な関係が好きな人にはきっと気に入ってもらえると思う曲。

 

 

9. Enslaved

原曲:古きユアンシェン(東方神霊廟)

 

こちらは神霊廟の主従、霍青娥と宮古芳香の曲。

霍青娥と宮古芳香の関係も隠岐奈と二童子と似たエグさがある。ただこちらはキャラ設定txtではなく求聞口授という書籍で明らかにされた。曰く、札を剥がし邪仙の呪縛から解き放たれれば生前の行動原理にもどり呆然と歌を詠んでいるとのこと。

 

Enslavedは奴隷にするとかとりこにするという意味らしい。

青娥と芳香の関係が逆転したと短絡的に解釈してよいかは迷うところだが、ユアンシェンの優雅なメロディにリジットパラダイスっぽい音が入ってきて騒がしくなる構成なのは確か。しかし最終的にはユアンシェンのメロディが勝っているようにもみえる。

 

 

10. 話九十九節

「さあじゃんじゃかべんべけべんべかどんどかどんどかどんどんと」

原曲:幻想浄瑠璃(東方輝針城)

 

天空璋で二童子が出たせいで存在感が希薄になることが危惧されている九十九姉妹の歌。このアルバムではツインボーカルの重なりを生かすという点で至天と違う方向で味が出ている。

まずこの曲は盛り上がる。楽器の付喪神がテーマだけあって、楽しそうなメロディ。

そして幻想浄瑠璃の最も盛り上がるメロディがサビの裏で流れる。このメロディがあってこその幻想浄瑠璃。

さらに自分で歌おうとしても口が回らない擬音語のフレーズたち。これがツインボーカルで綺麗に歌われるのだから盛り上がらないわけがない。

個人的な一押しは「その何もかも未だ聞かず」のnayutaさんの歌い方。このおしゃれ感が指示なのかアドリブなのかわからないけれど、とにかく最高。

 

 

いけいけどんどんな歌詞の中で「私を、鳴らして。」の解釈が難しい。 自ら音を発して演奏できる能力である九十九姉妹がそういう意味。

いつかは、という言葉がついているからには現段階では自分で音を発することができる。だけれども付喪神の反逆の時が終わってしまえば道具に戻る。琵琶も琴も古い時代の楽器だけれども、自ら発する音は新しく、平曲(ふるきうた)をやってさえも魂を湧き立たせる力がある。だから・・・

うーん、「貴方を、鳴らして。」という部分につながらないのでしっくりこない。

頭を空にして聞く曲にみえて実は深い意味があるのかもしれない。

 

 

11. Downfalling Ideology

「抱く思いをいま 形にせずままにして生きるなど」

原曲:リバースイデオロギー(東方輝針城)

 

最後に再び正邪の曲。

Uprisingのほうもそうだけれど、いわゆるAメロBメロサビが繰り返される構造ではなく様々なメロディが使われていることからもいかにこの二曲に手がかかっているかがわかる。

かくして哀れな結末を迎えた正邪だけれども、終わりとしてのこの曲は悲壮感はなくなおも変わらず世界を煽り続けている感じがする。

針妙丸が正邪を利用して目的を達成してもなお、お前はそれでよいのかと囁く。正邪としての存在は消えてもその下剋上のイデオロギーは生き続けて針妙丸と小人族を苦しめ続ける。そして打ち出の小槌の歴史は繰り返される。そんなふうにポジティブに解釈しても許されるのではないだろうか。

 

この曲の一番のお気に入りはこの世は坩堝~からの一連の口上。Uprisingの口上よりも軽快で乗せられてしまいたくなる。

これまでの凋叶棕のパターンだとこういう部分の歌詞はアルバム全体のまとめになっているのだけれど、この曲はあまりそのように感じない(ひょっとしたらまとめになっているのかもしれないけれど)。

なっていないのだとしたら、この部分は正邪のためだけにつくられた歌詞であり、いっそうの哀れがある。

 

奉(ささげ)感想 凋叶棕

東方プレイのお供にこの1枚!

(公式ホームページより)

 

RD-soundsという方の主催する凋叶棕という音楽サークルがコミックマーケット87(2014年冬)に発売した「奉」という東方アレンジアルバムについて

およびこの作品にまつわる東方プロジェクトのゲームの思い出について

 

公式ページ

http://www.rd-sounds.com/C87.html

 

奉は、公式のホームページにあるとおり東方プロジェクトとよばれる同人弾幕シューティングゲームの、音楽やキャラクターのみならずそのゲームそのものを題材にした、二次創作CDとなる。

 

曲目は

1. Insert Coin(s) 

 原曲:テーマ・オブ・イースタンストーリー(幻樂団の歴史5 東方靈異伝 〜 Highly Responsive to Prayers)

2. 紅魔「Un-demystified Fantasy」 vo.めらみぽっぷ

 原曲:Demystify Feast(東方萃夢想)

    二色蓮花蝶 ~ Red and White(蓬莱伝説)

3. 妖々「全て桜の下に」 vo.Φ串Φ

 原曲:アルティメットトゥルース

    ボーダーオブライフ(東方妖々夢)

4. 永夜「Imperishable Challengers」 vo.めらみぽっぷ

 原曲:月見草

    竹取飛翔 ~ Lunatic Princess(東方永夜抄)

5.  花映「タマシイノハナ」 vo.めらみぽっぷ

 原曲:魂の花 ~ Another Dream

    花は幻想のままに(東方花映塚)

6. 風神 「ブレイブ・ガール」 vo.めらみぽっぷ

 原曲:少女が見た日本の原風景

    信仰は儚き人間の為に(東方風神録)

7. 地霊 「幻想郷縁起 封ジラレシ妖怪達之頁」 vo.めらみぽっぷ

 原曲:暗闇の風穴(東方地霊殿)

8. 星蓮 「ウルワシのベントラー」 vo.めらみぽっぷ

 原曲:春の湊に(東方星蓮船)

9. 神霊 「死せる哲学の袂」 vo.Φ串Φ

 原曲:デザイアドライブ

    小さな欲望の星空(東方神霊廟)

10.  輝針 「セイギノミカタ」 vo.めらみぽっぷ

 原曲:輝く針の小人族 ~ Little Princess(東方輝針城)

11.  「テーマ・オブ・カーテンファイアーシューターズ」 -History 2/3- vo.めらみぽっぷ

 原曲:テーマ・オブ・イースタンストーリー

12.「テーマ・オブ・カーテンファイアーシューターズ」 -History 3/3- vo.めらみぽっぷ

 原曲:テーマ・オブ・イースタンストーリー

 

Windowsバージョンとなってからの紅魔郷から発売当時世に出ていた輝針城までの原作をテーマにした曲をひとつずつ。

はじめとおわりにすべての東方のプレイヤーのための曲という構成になっている。

まさに東方に“奉”げられた一枚。

 

 

 

 

 

 

1. Insert Coin(s)  

原曲:テーマ・オブ・イースタンストーリー(幻樂団の歴史5 東方靈異伝 〜 Highly Responsive to Prayers)

 

ひたすらコインを入れ続ける曲。プレイしたことがある人なら自分が入れたコインの数を覚えているほうが少ないだろう。

いわゆる旧作のサントラ集に収録されている書下ろし曲であり、靈異伝は旧作の1作目であるから、まさしく原点の曲。

曲の前半に、 コイン投入を連打するような場面があるけれど、そういうときは集中力も落ちて抱え落ちをし続けているときなので、おとなしく寝たほうがいいかもしれない。日を改めると案外するっといけたりする・・・という経験談。

 

 

2. 紅魔「Un-demystified Fantasy」

「守るべき規則ただ一人背負う」

 原曲:Demystify Feast(東方萃夢想)

    二色蓮花蝶 ~ Red and White(蓬莱伝説)

 

この曲は凋叶棕の(現在買い求められるなかでの)2作目の『謡』に収録されているもののリアレンジバージョンである。曲自体は以前からあった、いわば原点の曲。

 

原曲はどちらも紅魔郷からではない。

Demystify Feastは東方萃夢想でレミリアが敵として登場するシーンで流れて記憶に残っている(レミリアだけではないけれども)。あと、異変がなかなか解決されない焦燥感がつのって爆発する感じがこの曲のストーリーともマッチしている。

二色蓮花蝶は霊夢の曲という位置づけだろうか、バックにサビのメロディが流れている。

 

紅魔郷をノーマルでクリアするという観点からすると、パチェの4面が最難関であり、ここを余裕をもって通過できる構築ができれば、あとはすべてボムで吹き飛ばしていける。その意味では「知識だけの七曜など歯牙にもかけぬ勢いで」いく必要はない。

この曲の最後のサビは「千本の針の山」「吸血鬼幻想」「紅色幻想郷」といったハード以上の難易度のレミリアのスペカを思わせる歌詞が並んでいる。

とすると、この曲の本当の意味で味わうには紅魔郷のルナティックをクリアすることが必要なのではないかと思う。

紅魔郷のルナで「夜の向こう側へ」へ到達するのは相当選ばれし人でないと難しいけれど、だからこそそこを目指すのが原点といえる。

 

3. 妖々「全て桜の下に」

「生きては見えず。死しても見れず。」

原曲:アルティメットトゥルース

   ボーダーオブライフ(東方妖々夢)

 

東方妖々夢の6面からスタッフロールにかけてを妖夢視点でみた曲だと思われる。

妖々夢の異変は大雑把にいえば、西行妖を満開にさせたい幽々子が妖夢に春を集めさせたことに端をなす異変で、とうとう満開にはならなかった。だからこそその咎の重い世界は「生きても見えず。死しても見えず」というわけだったのだけれど、この曲はもしかしたら満開になってしまったパラレルワールドを歌っているのかもしれない。妖夢がその正体に気づくほどに。

神霊廟の妖夢EDで幽々子が死者の復活方法に興味を示して試す(そして飽きる)という描写があったのだけれど、幽々子はまだ満開にすることを諦めていないのではないだろうか。でも、幽々子ほどの洞察力があれば桜の下にあるものに気づいていそうなものだけれど。それでも、ということなのか。

 

妖々夢のラストバトルからスタッフロールの詩が流れるところ、まさにこの曲が描いている部分が、私が東方をプレイするなかで一番好きなところ。

咲夜のボム数にも助けられて唯一ルナティックをクリアできた作品でもある。

だから、自動的にこのアルバムで一番好きな曲はこの曲。そういう聞き方をするべきアルバムなのだと思う。

 

4. 永夜「Imperishable Challengers」

「さあ元凶を、打ち倒せ!」

原曲:月見草

   竹取飛翔 ~ Lunatic Princess(東方永夜抄)

 

この曲はどちらかといえば紅魔路線、原作の流れを映した曲である。

永夜抄といえば人妖が組んだオールスター感のある自機集団。それぞれにあわせた繊細な歌い分けが光るところ。

 

題名の意味するところの不滅の挑戦者たちは二つの意味があると思う。

ひとつは、なんど「一回休み」になろうとも繰り返し永遠に挑戦する主人公たち自機集団、そしてそれを操るプレイヤー。

もうひとつは、蓬莱人として文字通り不滅である輝夜や永琳である。永夜抄自体が永遠亭の面々の月におわする月人への挑戦という意味合いを含んでいる。この曲のラストの「元凶」は、輝夜たち側からすれば明けない夜をつくりだした主人公サイドということにもなる。

だから、この曲のラストはどちらサイドからも読める、それゆえに最高潮のクライマックスになっていると思う。ゲームクリアという観点からすると永夜返しは完全な消化試合だけれども、この曲を尊重するなら明けのスペルを拝むところまで頑張るべきなのだろう。

 

永夜抄はLast Wordにはまり込んだ記憶がある。文花帖がその役割を受け継いでいるような気もするけど、もう一回くらいこういうモードがないかな、と待っていたり。

 

5. 花映「タマシイノハナ」

「その身の罪は、幾許ならん」

原曲:魂の花 ~ Another Dream

   花は幻想のままに(東方花映塚)

 

東方花映塚から、エンディングとスタッフロールの曲を原曲にした静謐な曲。

花は幻想のままに、は花映塚を聞いた人なら幾度となく聞くことになった曲なはずで、その題名からも音からも語られるものが多いように思う。そして、本曲はそのイメージを歌にしたような印象。

花映塚のストーリーからすると、花に死んだ人間の霊が宿り自分の死に気づいていないか気づきたくないかで、花を咲かせ生きているつもりでいる。この歌詞はそうした名もなき幽霊からみた東方の世界という気がする。たぶん、一番から三番までそれぞれ別の人間から見た世界だと思う。

そして博麗の巫女たる霊夢も人間であるがゆえ、やがては同じ運命を辿る。

花映塚で語られるように霊夢には深すぎる業があっていつかその報いを受けるとしてもただ今は・・・そんなイメージ。

 

東方のなかで花映塚がいちばんエンディングを見る面白さがあって、その一方でエンディングにたどり着くのがめんどくさい。いつまでも落ちない四季映姫の、ふりそそぐ悔悟棒を避け続けた時間は幾許ならん。

エンディングではなんだかんだみんな映姫のお説教を聞き入れているのがいい。個人的には咲夜のエンディングの素敵な主従っぷりが好き。

 

6. 風神「ブレイブ・ガール」

「ここで生きていくという決意を滲ませて」

原曲:少女が見た日本の原風景 
   信仰は儚き人間の為に(東方風神録)

 

風神録からは早苗ステージの曲を原曲に、東風谷早苗というキャラクターそのものをテーマにした曲。

東方という作品を俯瞰してみたとき、風神録は転換点といえる。powerが4.0になり、1ごとにオプションが増えるという方式になった。そして、東風谷早苗という人間がレイマリに続く自機キャラとして存在感を増していった。

東風谷早苗というキャラは、外の世界から幻想郷へ渡り、外では現人神であったところを幻想郷では人間だと思い知らされるというなかなか重いストーリーを背負っている。その一方で、その後の登場作品(地霊殿、星蓮船、神霊廟、紺珠伝)と幻想郷に順応して常識離れしてシリアスな背景を感じさせない面もある。非常に幅広い存在。

凋叶棕における早苗の扱いも多種多様にわたるけれども、そのなかでも正統派よりにみえる本曲。歌詞を眺めながら聞くととても懐かしい気分になってくる。

 

風神録はとてもボムが強い。ラストスペル全振りといってよいその難易度は、パターン化の重要性を教えてくれるという意味で初心者向きといわれている。

弾幕自体の難易度はそれなりに高いので2面あたりで油断して抱えてるとクリアが覚束なくなる。時間を空けて久しぶりにプレイすると大体初回は失敗する。基本の大切さを教えてくれる作品。

 

7. 地霊「幻想郷縁起 封ジラレシ妖怪達之頁」

「かくて生延びる術の限り 明日に伝え残さん」

原曲:暗闇の風穴(東方地霊殿)

 

地霊殿からは、プレイヤーなら飽きるほど聞いたであろう1面の曲をアレンジ。

稗田阿求が書き残した妖怪記という形で語られるこの曲は、東方地霊殿のゲーム性をそのまま歌にしている。

 

紺珠伝が出るまでは、ノーマルクリアについては地霊殿が最難関というのが多数意見だったように思う。その理由としては、ボムの威力が全体的に弱くて1ボムでは攻撃をとばせないこと、ボムを使うとショットの威力が下がるためごり押しが通じにくいこと、ステージ(特に5面)が長くてパターンを組むことが大変なことがあげられる。

その一方で、ボスの攻撃に対してボムを使おうと被弾しなければ残機の欠片をもらえることになっている。つまり、どんな手段を使おうと生き残ることが正義なのである。

そんなゲームシステムを反映して、この歌も地霊殿の各妖怪の記録を明日へ伝え残すという形式になっている。一歩でも先に進んで先をみて、記憶を記録として栄智にしていくことがプレイヤーとしてかくあるべし姿なのだ。

 

地霊殿は残機が少ないときほど被弾したときに回収できるパワーが多い。したがって、生き残って残機を蓄えさせるシステムとは裏腹に、度々被弾しながら残機の少ない状態でパワーを高く保つというプレイ方法もある。

エクストラなんかでは序盤中盤でうっかり被弾しても意外になんとかなったりするのが地霊殿というゲーム。そういう意味でとても面白いバランスをしていると思う。

 

8. 星蓮「ウルワシのベントラー」

「そうよ あと 少しのところで その 色彩を変えないで」

原曲:春の湊に(東方星蓮船)

 

ベントラーシステムは、数ある東方の作品のなかで最も特徴的なシステムである。

赤・青・緑の3色ベントラー(UFO型アイテム)を同色・あるいは全て異色で揃えると巨大がUFOが発生してそれを倒すと各々の景品アイテムがもらえる。敵を倒すことよりもベントラーと巨大UFOに気を取られることも多々。

赤ベントラーが三つ揃おうとした瞬間に寸前で青に変わる、星蓮船あるある。

ベントラーを揃えるのをミスるとパターンが崩壊する、堅実なパターンづくりと緊急時のアドリブ力の両方が高いレベルで試される罪深きシステムなのである。

この歌は霊夢・魔理沙・早苗の三人の自機に合わせてそんなベントラーシステムにフォーカスしている。

レイマリがベントラーに翻弄される歌詞であるのに対して今作から自機となって生き生きして早苗さん、この曲は実質早苗ソングともいえる。

星蓮船をプレイしていると、ベントラーの理不尽さに発狂しそうになることも多いので、これからプレイしようという方は是非この曲の早苗さんのメンタリティを取り入れてほしい。

 

星蓮船発売後の時期から東方を始めたので、個人的に最もプレイ回数が多く思い出深い作品。ベントラーシステムやヘニョリレーザー、ボムが弱すぎる魔理沙B、エクストラの阿鼻叫喚道中など思い出(トラウマ)がいっぱい。

歴代ノーマルのなかで星蓮船のラストスペルが一番難しいと思う。なぜか1機2ボムしかなく被弾すればショットの威力は目減りしボム後の相手の無敵時間が長い、ボムの弾は消えない。ラスペで涙を飲んだことが一度や二度ではない。

 

9. 神霊「死せる哲学の袂」

「惨めかな 何にもなれもせず」

原曲:デザイアドライブ

   小さな欲望の星空(東方神霊廟)

 

神霊廟、ゲームの画面がポップになったのとは裏腹にストーリーは玄人好みなものになっている。

聖徳太子をモチーフ(虚構たる聖徳太子をモデルにしているから、一般的に知られている聖徳太子そのものともいえる)にしていて、さらに挑戦的な設定を加えている。キャラも政治・宗教的抗争が絡んでいて胡散臭いを通り越したやべーやつら。

そんな神霊廟に切り込んだこの歌は、一度聞いてもなかなか意味がわからない、聞き込んでも空をつかむよう。このアルバムのなかで最も難解な曲といえる。

 

まず、歌詞カードの絵からもこの曲は豊聡耳神子と神霊を歌っている。歌詞の並びが二つに分かれているが、左側が神子で右側が神霊であろう。そして、音楽的にも左側が通常、右側がトランス。これは神霊廟の、神霊ゲージを貯めてトランス攻撃をする、トランス攻撃中はBGMがトランス仕様になる、というゲームシステムを反映したものである。

神霊は簡単にいえば人の欲望が形になったものであり、モデルの通り十人の話を同時に理解できる神子はその欲望を受け入れ吸収できる。欲望が叶えられるわけではなく、受け容れられたことで消化されるとみるべきだろう。

神霊廟の設定では神子は民衆の統治に殺生を禁じ規律の厳しい仏教を利用する一方、自らは道教の術により不老不死を目論む。裏表を使い分ける為政者なのである。歌詞では神霊を受け容れつつも冷徹な面が垣間見え、底知れぬ恐ろしさがある。

ではこの歌のいう哲学とはなんなのか。神道でも仏教でも道教でもない哲学とは、死せるとは、袂とは。

ここから先は根拠の薄い想像なのだけど、題名の死せる哲学の袂は神子それ自身を表しているのではないだろうか。尸解仙として一度死んでいる。宗教という特定の信仰ではなく、人々の聖人を求める漠然とした欲望により復活する。袂は、跪いて救いを求めるときにつかむ先。

死せる哲学の袂、と文字を並べると仰々しいんだけれども抜け殻というか空白というか、そういうところが虚構たる聖徳太子を思わせなくもない。

 

神霊廟はノーマルクリアという観点からは一番易しいので、キャラ設定の厄介さに反して入門作品としては最適かもしれない。ただ、エクストラはトランスをいいところで使わないと辛くなるので個人的にはやりにくい。

厄介だなんだと連呼してきたけれど、闇深設定の神霊廟キャラが心綺楼等の後続の作品に出てきたときは親しみやすいキャラ付けがされている。ここらへんの塩梅が東方の二次創作の裾野が広がる妙なのかもしれない。

 

10. 輝針「セイギノミカタ」

「そうして繰り返す歴史に背を向けながら」

原曲:輝く針の小人族 ~ Little Princess(東方輝針城)

 

輝針城からはラスボスの少名針妙丸、彼女が鬼人正邪と手をとった異変の原因が題材にされている。

原曲のメロディがかなり反映されていて気持ちが高まる旋律、針妙丸のヒーローっぷりが際立つ歌詞。

しかしその一方で小骨が喉にささるような違和感がある歌詞なのも事実。

 

輝針城は、鬼人正邪が一寸法師の末裔という設定の少名針妙丸の打ち出の小槌を利用するために、彼女に小人族の偽りの歴史を吹き込み協力関係をもつ、ということが異変の原因である。

掲げられた理想が虚偽の理想であっても弱き者にとっての正義になる、正邪の視点からすると最初から偽りであったのだけれど、この歌の歌詞だと騙されたほうの針妙丸にとっても偽りの理想であっても構わないようなニュアンスに聞こえる。

「与するもの、一人としていない天邪鬼/小人の姫」と正邪と針妙丸は並列されていて、偽りから始まっていても両者の利害は一致している。針妙丸のほうも輝針城に幽閉された現状を打破することを超えて民を支配する立場に返り咲くという野望までをも持っているのかもしれない。そうして叶う前に代償が現れるような大きすぎる願いを抱き、歴史は繰り返される。

王道を往きながらそれをひっくり返すような解釈の余地も忍ばせる、このアルバムのなかで最も凋叶棕らしい歌だと思う。

 

輝針城は咲夜が久しぶりに自機になるということでかなり楽しみにしていた作品だった。そのため咲夜B(妖器なし)の機体性能の弱さ(クリア性能のなさ)っぷりには何度も心が折れた。

輝針城自体は平均的な機体を使えばノーマルもエクストラもそんなに難しいということはないが、咲夜Bだと難易度が跳ね上がる。しかし妖器なしのほうがグッドエンディングの流れなのでなんとしてもエンディングをみたい。というわけで輝針城で一番プレイ回数の多くなり、全作通じても一番印象に残っている機体となった。

 

11. 「テーマ・オブ・カーテンファイアーシューターズ」 -History 2/3-

「僕らは、そうやって、どこまで、行けるだろうか?」

原曲:テーマ・オブ・イースタンストーリー

 

最後は弾幕シューティングプレイヤーのテーマ、ということで、東方のプレイヤーをテーマにした歌となる。初出は東方幻奏響UROBOROS~fANTASIAsPIRALoVERdRIVE~というコンピレーションアルバムで、今回は少しアレンジが変わっている。

 

この歌はやはりプレイしなければわからないし、プレイヤーによって浮かんでくる景色も違ってくるから、取り立てて語ることはない。

ひとつだけ書きたいのは、こうして積み重なる思い出があるということはとても幸福なことで、どこまで行けるか走り続けている間は、次があると思っている間は、その幸せはきっと本当の意味ではわからない。いつかそれが終わってしまったときにわかるのだと思う。だから、その時がきたら幸福な思い出とともにまたこの歌を聞きたい。

 

3/3では小数点作品も含めた弾幕アマノジャクまでの作品が網羅されている。

そのNext Dream、次の夢が紺珠伝という月の夢で、東方史上(難易度的に)類い稀なる悪夢だったのも今となってはいい思い出。

ワンダリア(+タビノウタ)感想 Feuille-Morte

ー歌おう、あなたの存在する意味!

(CD帯文より)

 

RD-soundsという方の主催するFeuille-Morteという音楽サークルがコミックマーケット93で発売した「ワンダリア」というオリジナル・ファンタジー・アルバムについて

 

公式ページ

www.feuille-morte.com

 

ワンダリアは公式ページの絵でいうと左の制服姿の女の子(一ノ瀬朔実)が右のファンタジックな女の子(シューニャ)から色々な旅人の旅の軌跡、人生の物語の歌をきくという形式になっている。

曲目は

1. 自由落下[私の歌] vo.nayuta

2. 沈む舵輪のロンド[じゆうのうた] vo.めらみぽっぷ

3. 愛の旋律[しるべのうた] vo.Φ串Φ

4. 確かなるものの為に[ちかいのうた] vo.中惠光城/めらみぽっぷ

5. Exception()[いのちのうた] vo.めらみぽっぷ

6. 生贄の少女[ひかりのうた] vo.めらみぽっぷ

7. ずっと遠い世界から[二人の歌] vo.nayuta

8. [別れの歌/わかれのうた]ワンダリア[出会いの歌] vo.nayuta/めらみぽっぷ

 

[]内にひらがなのみの題と漢字も混ざった題がある。

これは、シューニャが歌ってるのがひらがなのみ、一ノ瀬朔実が歌ってるのが漢字混ざりとなっている。シューニャは世界を知らずに死んだ設定なのでひらがなだけなのでしょう。

 

 

 

 

 

1. 自由落下[私の歌] 

「私の命は私のもの」

 

アルバムの主人公の一人、一ノ瀬朔実の歌。

この女子高生(推定)はおそらく誰かのために自分の命を投げ出して死んだということなのだろう。そして死んだ先の世界でシューニャと出会い、このアルバムの物語がはじまる。

 

冷めた見方をすれば、自分の生きている世界に合わずに生き急いでいるということもできる。

でも、自分の命をどう使うかは究極的には自分の自由、これがこの物語のテーマ。その高らかなテーマにふさわしく明るく、空のようにひろがる曲調が聞いていて爽快。

 

 

2. 沈む舵輪のロンド[じゆうのうた]

「私こそ知っている 自由の価値を知っている」

 

「じゃあきかせてあげるよ、みんなのうた」とシューニャが返してはじめに歌うのは海賊グレース・ボニーの歌。朔実と同じく自分の命で他人を救い自分のために使った歌。

昔語り風のメロディがとても好き。オリジナルファンタジーの真骨頂ともいえる。

RD卿の作品でいえば『遙』の「伝説のユグドラシル」と似ていると思った。

 

「人未満の運命」という部分がはっきりとは語られていないが、この海賊は人々の噂のように政に追われた姫君なのだろうか。そして生き別れの弟に似た男を助けて自分は死んだと。

生まれは選べず自由でない運命を背負っていても、自由のその先の結果が無駄死にだといわれようとも、自分の命を自由に使って死ぬという選択、その過程こそが重要と。

 

完全に肯定はできなくてもこうして歌で聞くと引力がある。

 

 

3. 愛の旋律[しるべのうた]

「真の、偽愛の旋律」

 

このアルバムにあっては異色の、場末のスナックを感じる曲調の問題作。その一昔以上前の恋愛ソング風の雰囲気とアンマッチな内容の歌詞が目を引く。

 

芸術を産み出すには愛が必要、という芸術家は過去にたくさんいて、そして芸術は愛を題材をしたものが多いのも事実。しかし・・・

私が思うにこの歌には二つの見方がある。

愛の旋律を知るために偽りの愛へ身を任せるこの女の子の旋律への愛こそがただひとつ真のものであるという見方。

あるいは、愛というよるべにするには不確かな思いを身をもって体感することで自らの旋律への思いも不確かなものへとなっていって、愛の旋律を得るという見方。

後者のほうがひねくれているけれども、この曲が全体としてどこか不安定なことを思うと、どこか否定したい後者の見方も捨てがたいように感じる。

 

 

4. 確かなものの為に[ちかいのうた]

「広い世界のどこでさえ。敵だらけ。」

 

前トラックの愛の旋律とは正反対に、確かなものを求めるテロリスト姉妹の歌。シューニャ一押しソングでもある。

敵に追い詰められてなお姉であるジュリエットを売らないリラ、彼女の姉への誓いがただひとつこの世で確かなものである。疾走感のある曲調と畳みかけるようなデュエットが耳に心地よい。

ただ、このアルバムだと自分で運命を決められていない分救いのない歌なのかもしれない。だからこそシューニャはこの歌を推しているのかもね。

 

 

5. Exception()[いのちのうた]

「あなたの傍に。その全てを裏切る例外処理です」

 

このアルバムで一曲挙げるとするならばこれ。世界観に震える。

デイジーという科学者に創られた人工知能が命というエゴの器をもつ歌。

 

デイジーという名前はDaisy Bellという19世紀につくられた歌がモチーフになっている。実際、この曲から以下の部分が引用されている。

「Daisy, Daisy, give me your answer do.  I'm half crazy, all for the love of you」

この曲は、1961年にコンピューターが初めて歌った曲としても有名である。

www.youtube.com

映画「2001年宇宙の旅」でもHAL 9000が機能停止させられる断末魔として上の引用した部分を口ずさむ。そういった意味でコンピューターにとって象徴的な歌なのだ。

 

この曲は、ある意味では2001年宇宙の旅と同様に人工知能の反逆がテーマといえる。

解釈としては意見が分かれるところだと思うけれども、私は、自分の創った人工知能と宇宙船で宇宙に逃げた科学者が、人工知能によって一人母星に帰されて、人工知能は一人その機能を停止する、という曲だと考えている。

人工知能は不死だから、デイジーが死んだあとも処理に従うなら残りつづける。それが耐えられないと。

この解釈だと別に一緒に逃げてデイジーが死んだら自ら機能停止すればいいんじゃない?って感じもするからどこかずれているかもしれないけど。

 

題名の()部分はおそらく自らに生じたこころをあらわしている。歌詞のなかの[param_definition]部分で怒りや涙や悲しみはrage tears griefと言語にされているけどこころはundefinedとされているから。

一人生き残ってしまうのはつらい。そのつらさがわかるからこそ、わかってなお相手を一人残すというのはなんともエゴな感じがあり、まさしく愛だと思う。

I'm half crazy, all for the love of you という引用句のとおりに。

 

 

6. 生贄の少女[ひかりのうた] 

「いのちがもつ意味を知りたいです!」

 

朔実のリクエストによりシューニャ自身の歌について。前作の「タビノウタ」から謎だった彼女の素性が明かされる。

前半部分はシューニャのアルバム中最も悲惨な、しかし歴史上はそれなりにあっただろう人生。ちょっと違うけどなんとなくドナドナを思い出してしまった。

後半の明るい調子がシューニャの本来の性格で、生前は一度もそれが発揮されなかったのだとしたら悲しいを通り越してしまう。彼女は生前なにも知らなかったからひかりしか見えなかったのだろうか。その後の自分と同じように場所をくれた存在はどんな人だったのだろうか、それは永遠に欠けたままに。

 

 

7. ずっと遠い世界から[二人の歌]

「だれかを助けて、それが、自分の人生の全てになってしまっても。」

 

朔実のもうひとつの歌。亜実と朔実の歌。

 この歌が一番難しい歌だと思う。

このアルバムを全部聴くと「ずっと遠くまで行ってしま」ったのは朔実のほうじゃないかとか、「あんなに、つらそうにしていたのが、うそみたいに」とか「なにもかも、わるいゆめのように、おもえるから」というならつぐみは死んでしまったのではないかとか。

いもうとをたすけてくださいと願って朔実が代わりになったのならなぜ女子高生姿なのかとか。

直感的にいうと、右側の歌詞は朔実から亜実への形式をとっているのだけど逆もまたこういう語り掛けになるんじゃないかと思う。

だからこそ、二人の歌という副題。

 

 

8. [別れの歌/わかれのうた]ワンダリア[出会いの歌]

「たったいちどきりしかいえない―さよならの言葉を。」

 

シューニャから朔実が役目をひきつぐ歌。別れは二人でしたから漢字とひらがな表記、その後の新たな旅人との出会いは朔実が一人でするから漢字だけ。

このアルバムで語られる死生観だと、輪廻転生とは少し違って想いが尽きるまで旅は終わらない、死さえも過程でしかなく空を往き続ける、想いが尽きたときが空を往くときの終わりということになる。なかなかハードな世界。

CDを取り出した面に最後の歌詞がのっていて、朔実の再会と、タビノウタとの関係が示される。

 

タビノウタはC92で発売されたミニアルバム、ワンダリアの前作である。

http://www.feuille-morte.com/tabinouta.html

であいのうたは旅人と出会ったシューニャの歌。この作者の歌のなかでのトップクラスの、単体で聞くならばよっぽど意地悪な深読みをしない限りは明るい歌。なつかしのカントリーソングのような。旅を続けるならどこへでも行ける、それは希望でありある意味では呪いのようなものでもある。

旅路は短いインスト。前曲のにぎやかな明るさとうってかわって静かできれいな曲。

わかれのうたは死んでるけど臨死体験というか。交通事故(?)で死ぬまでを歌って旅を終えまた旅は続く。底まできてまた空へ戻っていく、朔実とは違う旅人の歌。「きみはすべてを忘れてしまうと思うのだけれど」「そのうたをわたしはきっと忘れないよ」というのがワンダリアを聞いてシューニャのキャラをふまえるとさらにいい。

「もう二度とここへ来ないようにね」というのはどういう意味だろうか。想いを残して死ぬなということか、シューニャの無邪気さゆえの死ぬななのか。

 

 

おすすめポイント

ワンダリアのなかで、単曲としていちばんなのはException()、メロディとしては沈む舵輪のロンド、フレーズはワンダリアの「たったいちどきりしかいえない―さよならの言葉を。」という部分。

公式のクロスフェードだと54秒~1分35秒を聞いてみてほしい。未購入でここまで読む人がいるかわからないけれど。

 

ちなみに作者本人によれば

 

 

 とのことでした。