きっかけ
Fateという巨大コンテンツの存在は知っていたけれども、派生を含めてふれたことはなかった。
別に忌避していたわけではなく、きっかけがなかっただけ。
あるときうっかりネタバレを踏んでしまって、間桐桜のキャラ設定(の一部)を知ってしまった。興味を惹かれたけれども、長い長いノベルゲームの最後のルートで描かれると知って興味を置いといた。
いわゆる桜ルートであるHeaven's Feelの第2章lost butterflyが公開されて、なんとはなしに主題歌のI beg youの動画を見て、大サビ部分を聞いたときに映画を見に行きたいと思った。
特に「願望も悔恨もただ埋め尽くす」の一節がすごく良くて、ただそれだけで引き込まれた。
映画館で見に行きたいと思った。
それがおよそ2週間前。
15年のコンテンツを2週間でとりあえず味わった感想。
必要な前提について
Fate/stay nightを一言で表すと世界で一番売れた18禁ノベルゲーム。
細かい選択肢を別にして大筋は3人のヒロインであるセイバー・凛・桜の3ルートがあり、原作では攻略順が決まっている。
つまり実質的に一本道で、同じ時間軸の物語を違う角度から語ることで世界観を徐々に明らかにしていくタイプのゲームといえる。
桜ルートであるHeven's Feelはグランドファイナルなので前提条件が多い。
この記事を参考にさせていただき、dアニメストアで観ることができたUBW(凛ルート)、Zero(前日譚?)、そしてレンタルでHF第1章をみてから劇場へ向かった。
それぞれの簡潔な感想
UBW
実質士郎ルート。彼の正義に関する問答は面白かっし凛もヒーローヒロイン両面で魅力的だったけど、尺が長すぎて中だるみした。の割にラスボスがギルガメッシュだから物語としては消化不良感のあった。
つまり、恋愛ものとして良かったけど舞台要素を消化しきれてなくてまとまりがもうひとつ.
Zero
後付けの前日譚という面が良くも悪くも出てる作品。
聖杯戦争というアドベンチャー面をみるとUBWよりも刺激的な展開なのだけど、本編との連続性を考えるとパワーバランスが強すぎて整合性を欠いている。セイバーは物語上の貧乏くじを引かされすぎでは。
後期EDが曲と映像含めてよかった。
HF第1章
導入編感があってこれだけだといかんとも評価しにくい。恐らく膨大であろう原作をテンポよく消化するために共通ルート部分はかなり端折られてて、上記2作品を観といてよかったと思った。
恋愛ノベルゲームにありがちなことだけれど、本編開始前にこれほど桜との積み重ねがあってもUBWの中盤から全然出てこなくなるのはちょっとかわいそうすぎでは。
花の唄がインストも含めてとてもいい。曲全体でいえばI beg youよりも花の唄のほうが好きかもしれない。
第2章 lost butterfly(ネタバレあり)
公開4週目ということで。
結論からいうと、すっごく良かった。第1章の2倍くらい良かった。
なにが一番良かったかというと士郎が壊れていくところ。UBWであれだけ拘って勝ち得たかのようにみえた正義に関する自らの信念を投げ捨てる選択をする、選択をする決意をするけれどもその重さに潰されそうになる、それにとても興奮する。
この点の魅力については後でもう少し。
音楽。
I beg youの大サビの部分のインストアレンジが臓硯と対峙するシーンで流れたところが一番のお気に入り。あと、本予告のメロディがたびたび使われたのも印象に残った。
歯車が狂っていく感じの歪さがある音が多くて、よい意味で落ち着かなかった。
エロ。
桜の設定である、幼いころから刻印蟲による修業(虐待)を受けていた、義理の兄である慎二からレイプを受けていた、という部分をはっきり描いたのは英断。たぶんこの設定がなければこの話の魅力は半減以下になってしまう。
この設定があるからこそ、汚れている(と自分で認識している)桜の、成就した士郎への想いへの執着が重さを増す。
しかし蟲云々の部分はZeroよりすごいグロ描写が来るのかと身構えてたからそうでもなかったのは安堵と拍子抜け。
直接的な描写としては自慰と性行為が数回。自慰のほうは尺は短かったけど後に手を洗うシーンまで含めてなかなか。性行為も桜が幸せそうでよかったけれど、士郎の左腕が動かないというシチュエーションを生かしてもうちょっと克明な描写がほしかった。R指定がついてないとここらへんが限界なのだろうか。
家族や恋人といってもそんなに気まずくならないくらいに収まっていると思う(個人の感想として)。
桜と凛。
たぶんこの姉妹の関係は第3章でやるのだろう。
凛が高跳びのエピソードを語ったシーンでは思い込み三角関係みたいになって崩壊していくのかと思ったけど、2章では予想と違えてそれ以上の進展はなく、士郎と桜の関係にフォーカスが当てられていた。
これまでの描写を見る限り、桜はかなり凛に憧憬・羨望があってそれがいつ傾いてもおかしくない。まあ勝手に養子に出されてもともとの姉が(少なくとも自分よりは)健やかに生きているのをみると心中穏やかならざるものをもってるほうが自然なので、それが憧憬・羨望とどう絡んでくるか。
一方で凛も、桜に対してはだいぶ気にかけているように見える。
桜を殺すと一度は決断したものの士郎と一緒にいるところをみてスルーする。一方でUBWのときもそうだけど凛は士郎よりも洞察力があるから、早い段階から桜が影だと気づいている。それでも自分では動かない。
第1章のラストで蟲虐待の現場に気づいているからそれも含めて姉妹対峙の場面があるだろう。士郎と桜の関係と違って2章まで余り尺がなかったから3章ではがっつりめに描かれるのかもしれない。楽しみ。
美少女ゲームの構造的矛盾ゆえの魅力
上で書いたようにこの映画の最大の魅力は主人公である士郎が壊れていくところ。
UBWで描かれていた士郎の、正義の味方になりたいという夢。冗長だと感じてしまうほどアーチャーとの問答の末にその想いを覚悟をもって定める。
ところが、それはHFでは覆される。桜一人の正義の味方になる、という決意をして自分を裏切る。決意はするものの、2章の段階でそれは絶えず揺らぐ。
一番お気に入りのシーンは、桜をナイフで殺そうとして殺せず、次の朝やつれた顔を見せるシーン。桜が「先輩になら(殺されても)いいです」と言っていることも含めて。一晩桜を放置して犠牲者が増えるだけでもこの有様なのだから3章ではどうなってしまうのかとても楽しみ。
士郎が桜だけの正義の味方になる、という決意についてカタルシスを感じるのは他のルートで士郎の思想が尺を取って描かれているからで、同時多世界を描けれるノベルゲームの構造ゆえのうまみなのである。
しかし、一方で男性向け恋愛ノベルゲーム、いわゆる美少女ゲームであるがゆえの致命的な欠点もそこに同居する。
それは、士郎が桜だけの正義の味方になるという動機について十分に描ききれないからである。
Fateはそもそもヒロインが3人いて、プレイ構造は一本道だとしても同じ世界に3つの物語の筋が存在して分岐しうる構造となる。主人公である士郎は物語開始時点で3人のヒロインの誰とも恋愛関係になりうる。
にも関わらず、桜を選択したときだけ自らの抱いてきた信念を裏切ることができるのはなぜか。これを説得的に描写するのは困難極まりない。さらに、そこを説得的に描写しようとすればするほど他の2人のヒロインとの恋愛関係が軽くなる。
そして士郎の性格。士郎は非人間的にまで正義を追求する人間で、そのキャラ設定は恋愛方面での対人関係の疎さを説得的にする要素である。美少女ゲームにおいて、主人公の恋愛への指向を薄くしたほうが万人には受けやすくなる(拒絶反応が出にくくなる)。
しかし、そうして恋愛方面の指向を疎くすればするほど、桜を選ぶということの説得力が薄れるのである。士郎側から桜に執着する理由が薄くなる。
繰り返しになってしまうが、この構造的矛盾はHFにおいてこれまでの士郎を覆すというカタルシスと同居するものである。だから、矛盾があるからいけないというわけではない。むしろその矛盾を引き連れた歪な輝きが、HFというルートを際立たせているんじゃないかと思うのだ。
3章
spring song
予告によると、3章は2020年の春ということらしい。
桜は花見に行きたいというようなことを言っていたので、延期はないだろう。たぶん。
感想を書くにあたって色んなブログを探してたら、1章の感想があっても更新が止まっているところが結構あった。1章の感想をあげてこのクオリティの2章の感想をあがらないのは悲しいものがある。
あと1年くらいは失踪しないでおきたいなあ。