四半世記

感想文ページ(ネタバレあり)

現代作家アーカイヴ 松浦理英子(第13回)感想 2018年2月2日

イベント概要

今年の2月2日にこんなイベントがありました。

new.lib.u-tokyo.ac.jp

 

松浦理英子という作家は、一般人に参加できる催しになかなか現れない。

貴重な機会ということで行ってきました。

公式で書き起こしとか上がるかなーと思ってたんですが、そういうこともなさそうな雰囲気なので備忘録を。

3が月前の記憶とメモ書きからの復元なので箇条書き程度です。

イベントの流れは、3作品の解説(インタビュアーとのやり取り)→朗読→サイン会という感じでした。

 

ナチュラル・ウーマン

  • タイトルをつけあぐねた。読者アンケートでも「タイトルがださい」とだけ書いてある意見をもらった(笑)
  • いまタイトルをつけるならAaliyahの「More Than A Woman」からとる。
  • 人と人が関わりを持つなかで生じる攻撃性を描きたかった。
  • 便宜上女という言葉を使っただけ。
  • 容子は徹底的に受け身であることで相手を変化させる。受容することの強さがサドのプライドを損ねる。相手をコントロールするのとは異なる支配性をもつ。
  • (インタビュアーの言葉に対して)花世をバイセクシャルとする規定には疑問がある。
  • 当初は三部作にするつもりはなかった。「一番長い午後」を書いてから、そこに至る道程も書く必要があると思った。
  • 単行本にする際に時間軸通りに配置したほうがいいのではという提案もあったが、物語性への抵抗やシャッフルすることの効果性を考えて掲載順にした。

犬身

  • シリアスなSFではなく、”下らない”といわれるような作品にしようと思った。
  • 人と犬の関係から、性愛から離れて皮膚感覚的な部分を描きたかった。
  • (魂と身体の二元論を意識しているかという問いに対して)二元論的には分けていない。魂と外部との境目が皮膚である。
  • 犬はただそこにいればいい存在であるため、飼い主の抱えている問題には無力。
  • (最愛の子どもと絡めて家族というものにテーマを移しているのかという質問に対して)家族というのは素材にすぎず、小説をかくときの一番大事な部分ではない。目的ではなく、力をこめてかいているわけではない。
  • (エピローグについて)終わる物語への抵抗としての円環構造。アーバンミュージックがルーツ。

最愛の子ども

  • 「裏ヴァージョン」のトリスティーンから着想していて、一人称複数の共同体としての視点から描いている。
  • 高校生という極めて限定された世界でのみ成立する人称。
  • 女子高校生というのは世の中でみじめな存在で、一時的にでもパワーをもたせるのが言葉や物語。
  • 40歳をすぎるくらいまで攻めの気持ちはわかっていなかった。日夏の内面についてもあまりわかってないかもしれない。
  • 現代の女子高生を研究するためにAKBINGO!をみた。意外と変わらないと思った。

イベント全般の感想

 作品の解説も新しい情報が多くてよかったけれども、なんといってもご本人の生朗読! 事前にそういうことをやると知らなかったので動揺で手が震えましたね。

 ちなみに読んだ箇所は「最愛の子ども」の日夏と空穂がキスをするシーン。本人的にも自信があるシーンということで。読み方の調子としては、空穂のセリフにすごく力を入れているように感じました。

 あとファンとして味わい深い情報は、花世がバイセクシャルと規定されることに疑問を呈したこと。本人的には花世について具体的な像があるのだろうかということを想像してしまう。それと、攻めの気持ちがわからないということころ。ということは・・・

 「最愛の子ども」は「裏ヴァージョン」のトリスティーンが一人称複数の視点になっているということは言われなければわからなかった。言われて読み返してみると文体が似ているように感じる。裏ヴァージョンでもっとも自伝的な要素を含んでいるようにみえるANONYMOUSでは「親が二人とも女であるジェンダーレスな家族を扱った小説なら書いてみてもいいかも知れない」という一節があり、物語のアイデアはここからきている。この部分はトリスティーンがグラディスとラウラの関係を疑うところを不仲な良心に仲良くなってほしいと望んでいる子どもになぞらえる解釈をうけている。そういう意味でトリスティーンは「最愛の子ども」の二重のモチーフである。そんなことを考えてトリスティーンを読み返すと、空穂たちの未来の可能性のひとつとして描かれているように思えて、味わい深い。

 今回のイベントでもサインがもらえました。ナチュラル・ウーマンの表紙裏に、以前もらったサインの隣にかいていただきました。明らかにサインなれしていないこの署名が愛おしいと同時に、こんな俗なことをさせてしまっているという罪悪感もあるけれども、うれしい。

f:id:caheaki:20180530020601j:plain